北米の歴史

なぜ北部の労働者は奴隷制廃止に反対したのか?その背景を解説

なぜ北部の労働者は奴隷制廃止に反対したのか?

19世紀のアメリカ北部において、一部の労働者が奴隷制廃止に反対する姿勢を見せた背景には、いくつかの明確な理由がありました。ここでは、その主な要因を3つに分けて詳しく見ていきます。

1. 雇用競争と賃金低下への恐れ

最大の理由の一つは、失業や賃金低下への不安でした。奴隷が解放されれば、彼らが北部へ移り住み、仕事をめぐって直接競合すると考えた労働者は少なくありませんでした。「競争が激化すれば賃金が下がり、家族を養うのが難しくなる」という懸念は、当時の労働者にとって切実な問題だったのです。

実際、北部の労働者は新しく移住してきた移民との競争をめぐって暴動を起こした例もありました。解放された元奴隷に対しても、同様の偏見や攻撃的な態度が向けられる可能性があると警戒されていたのです。

2. 経済全体への悪影響を懸念

もう一つの理由は、奴隷制が経済に必要不可欠だと信じていたことです。奴隷制を廃止すれば南部経済が崩壊し、それが国全体の経済に深刻な打撃を与えると考えていたのです。

「奴隷制廃止による景気後退が起きれば、自分自身の職さえ失いかねない」という恐れが、多くの労働者を廃止反対の立場へと押しやりました。

3. 奴隷制を「自分に関係のない問題」と捉えていた

三つ目の要因は、奴隷制の問題が自分たちの生活に直接関わらないと感じていたことです。特に1830年代には、労働運動の中に「自由労働(free labor)」を掲げる複数のグループが現れ、経済的・哲学的な原理に基づいて反奴隷制の立場を取りました。

こうした「自由労働」派の活動は、当時アメリカ最大の都市圏であったニューヨーク市の職人たちの間で特に顕著でした。しかし、労働運動全体として見れば、反奴隷制活動への関与は限定的であり、多くの労働者は奴隷制問題に積極的に関心を示さなかったのです。

すべての北部労働者が反対していたわけではない

重要なのは、北部の労働者全員が奴隷制廃止に反対していたわけではないという点です。実際には、多くの白人労働者が奴隷制廃止運動(アボリショニスト運動)を支持し、奴隷制の終結に向けて積極的に行動していました。

つまり、北部労働者の態度は一枚岩ではなく、経済的な不安や社会的な偏見、そして問題への無関心といった複数の要因が絡み合い、一部の人々が廃止に反対する結果となったのです。