奴隷所有者たちの主張:北部も奴隷制度の恩恵を受けていた
アメリカ史において、奴隷制度を擁護する奴隷所有者たちは、奴隷制度の利益が南部だけのものではなく、北部もまた深く関与し、恩恵を受けていたと主張しました。この主張は、自らの行為を正当化し、奴隷制度への反対意見を封じるための論理として用いられました。以下、彼らが挙げた主な論点を紹介します。
1. 綿産業との関わり
当時の北部には繁栄する綿産業が存在していました。奴隷所有者たちは、南部のプランテーションで生産される安価な綿花が北部の紡績工場に安定的に供給され、北部経済を支えていたと主張しました。奴隷労働がなければ綿花の大量生産は不可能となり、北部の綿産業は崩壊し、経済的に大きな打撃を受けるだろうと彼らは論じたのです。
2. 海運業への貢献
奴隷貿易は北部の海運業にとって重要な収入源でした。アフリカからアメリカ大陸へ奴隷を輸送する業務は、北部の海運会社に莫大な利益をもたらしていました。奴隷所有者たちは、この貿易が廃止されれば北部の海運業は深刻な経済的損失を被ると主張し、北部も奴隷貿易の利益を享受していると強調しました。
3. 金融業界への投資
北部の多くの銀行や金融機関は、奴隷貿易や奴隷を担保とした融資に投資を行っていました。奴隷は当時、一種の「資産」として扱われ、金融商品の担保にもなっていたのです。奴隷所有者たちは、こうした投資が失われれば北部の金融業界も大きな打撃を受けると主張し、北部の資本も奴隷制度に組み込まれていると論じました。
4. 政治的権力の構造
奴隷制度は政治面でも北部に影響を与えていました。当時の南部は、奴隷人口を数に含める「5分の3条項」などにより、連邦議会や大統領選挙人団において不釣り合いなほど大きな代表権を持っていました。奴隷所有者たちは、この政治的権力こそ奴隷貿易がもたらす経済力の証であると主張し、奴隷制度が廃止されれば北部もこの政治的バランスを失うと論じました。
まとめ:共犯関係を強調する論理
以上のように、奴隷所有者たちは綿産業、海運業、金融業、政治構造といった多方面にわたる論点を挙げ、北部も奴隷制度の「共犯者」であると主張しました。この主張の目的は、奴隷制度の責任を北部にも分散させることで、自らの行為を正当化し、廃止論者からの批判を弱めることにありました。しかし、こうした主張は奴隷制度という非人道的な制度の本質を覆い隠すものであり、やがて南北戦争を経て奴隷制度は廃止されることとなります。