1700年代のアメリカ、すなわちイギリス領13植民地の時代には、統一された国家通貨は存在しませんでした。人々の取引を支えていたのは、ヨーロッパ各国からもたらされたさまざまな外国硬貨です。中でも最も広く流通していたのが、スペイン製の銀貨「レアル」でした。
なぜ国家通貨がなかったのか
当時のアメリカはまだ独立国家ではなく、イギリス王政の支配下にある植民地でした。そのため、中央政府が発行する公式通貨というものがなく、交易や日常の支払いには海外から流入した外国貨幣がそのまま使われていました。さらに硬貨は常に不足しがちで、タバコや毛皮、貝貨(ワンパム)といった商品そのものが通貨の代わりとなる「商品貨幣」も盛んに利用されました。
主に流通していた外国貨幣
スペインのレアル――通称「ピース・オブ・エイト」
植民地で最も一般的だったのがスペインの「レアル」です。1枚の大型銀貨が8レアルに相当したことから、英語では「ピース・オブ・エイト(8分の1の断片)」と呼ばれていました。価値が安定し信頼性が高かったため、この銀貨は事実上の基軸通貨として機能しました。
イギリスのシリング
宗主国イギリスのシリングやペニーも流通していましたが、本国が植民地からの金銀流出を防ごうとしたため、実際に出回っていた量は決して多くありませんでした。
ポルトガルやオランダの貨幣
このほか、ポルトガルの金貨「ムイドール(moeda)」や、オランダの「ギルダー」なども、貿易港を中心に使用されていました。異なる通貨が混在する環境では、重量や銀の含有量をもとに価値を見積もることが常識とされていました。
各植民地が発行した紙幣
硬貨不足を補うため、マサチューセッツ湾植民地をはじめとする各植民地は独自の紙幣(コロニアル・スクリップ)を発行しました。しかし発行体がばらばらで信用度もまちまちだったため、価値が暴落を繰り返すことも少なくありませんでした。
ドル誕生への道
独立後の1792年、鋳造法(Coinage Act of 1792)によって合衆国ドルが正式に制定されます。その名称と単位体系は、最も信頼されていたスペイン銀貨「8レアル=スペインドル」に由来しており、植民地時代の複雑な通貨事情こそが、今日のドルの原型となったのです。