ヨーロッパの歴史

古代ローマで一番人気だったのは「スパニッシュソース」――伝説の魚醤ガルムの物語

古代ローマで愛された魚醤「ガルム」とは?

ケチャップ、ボロネーゼ、タルタル、ローズ……。現代で最も人気のあるソースといえばこれらですが、いつの時代もそうだったわけではありません。今回は、ローマ帝国時代に最も人気を博したソース、「ガルム(garum)」についてご紹介します。

タルテッソスに起源を持つ、帝国規模の調味料

ガルムの起源は、イベリア半島南部に栄えたタルテッソス時代にまでさかのぼると考えられています。そして、これを帝国全土に広めたのがローマ人でした。食文化研究家のカルロス・アスコイティア氏によれば、その語源はギリシャ語の「ガロス(garos)」で、これは日本でいうサバにあたる魚を指す言葉だといいます。

作り方と二つの等級

ガルムとは、サバ、チョウザメ、カタクチイワシ、マグロなど、魚の残り部位を塩漬けにし、日差しの下で発酵させることで作られる、粘り気のある魚醤です。ローマ人はこの味にすっかり魅了され、野菜にも魚にも肉にもふんだんに使いました。さらにヒスパニア(現在のスペイン)からの交易路を帝国全体で支配し、ガルムを重要な商品として扱ったのです。

製造過程では二種類の製品が生まれました。ひとつは上質で「当時のキャビア」と称えられた最高級品リクアメン(liquamen)。もうひとつは、庶民の間で親しまれた普及版のハレク(hallec)です。

その香りは? 詩人マルティアリスの皮肉

発酵した魚のソースが放つ強烈な匂いは、さぞかし凄まじかったことでしょう。実際、詩人マルティアリスはこんな一句を残しています。

息が臭いと思ったら、それこそガルムの仕業なり。

とはいえ、味の好みは人それぞれ。現代人には想像しがたいこのソースも、当時の人々にとっては何ものにも代えがたい絶品だったのでしょう。

出典:フアン・エスラバ・ガラン『懐疑主義者のために語るスペインの歴史』
写真:Southeast Flowers