ヨーロッパの歴史

トゥドミール条約――イスラム勢力のイベリア半島拡大を支えた寛容な協定

トゥドミール条約とは

イスラム勢力がイベリア半島で急速に拡大できた理由の一つに、条約の活用が挙げられます。その最も重要な例として知られるのが、713年にムーサの息子アブド・アル=アズィーズとゴート人伯テオドミロの間で締結された「トゥドミール条約」です。この条約の対象となったのは、現在のロルカ、ムルシア、アリカンテ、オリウエラにあたる地域でした。

条約の内容は、テオドミロ伯がアブド・アル=アズィーズへの服属(貢納)を認める代わりに、引き続き自領の統治を続けることを許されるというものでした。この柔軟な対応こそが、征服と統治を円滑に進める大きな要因となりました。その重要性から、以下に条約文の訳文を紹介します。

「慈悲深く慈愛あふれるアッラーの御名において。アブド・アル=アズィーズ・イブン・ムーサ・イブン・ヌサイルから、トゥドミール・イブン・アブドゥシュ(ゴート人の子テオドミロ)へ布告する。彼は平和を得、アッラーとその預言者の保証のもと、彼自身および彼の民の状況が変更されないことを約束される。すなわち、彼の臣民は殺されず、捕虜にされず、妻子と引き離されることもない。彼らが自らの宗教を実践することを妨げられず、彼らの教会が焼かれることも、内部に安置された礼拝用品が奪われることもない。ただし、我々が課す義務を履行することを条件とする。

彼には以下の都市の引き渡しとともに平和が与えられる。ウリューラ(オリウエラ)、バルターナ、ラカント(アリカンテ)、ムーラ、ビジェナ、ラウラカ(ロルカ)、エッロ。さらに彼は、我々から逃れる者や我々の敵に対して庇護を与えてはならず、彼らに危害を加えてもならない。我々の赦免を受けている者に危害を加えてもならず、我々の敵に関する情報を知り得ても隠してはならない。

彼とその臣民は毎年、一人当たり現金1ディーナール、小麦・大麦・ぶどう汁・酢各4測量単位、蜂蜜とオリーブ油各2測量単位を貢納する。召使いについては1測量単位のみとする。ヒジュラ暦94年ラジャブ月(西暦713年)に交付。証人:ウスマーン・イブン・アビー・アブダ、ハビーブ・イブン・アビー・ウバイダ、イドリース・イブン・マイサラ、アブル・カースィム・アル=マザーリー」

出典:イブン・アダーリー(アンダルスの歴史家)

条約の歴史的意義

トゥドミール条約は、イスラム勢力が武力による征服だけでなく、既存の支配者との協定を通じて統治を確立していったことを示す貴重な史料です。被支配者の宗教的自由を認め、貢納を条件に自治を許可するこの方式は、後のイスラム支配地域における統治モデルの一つとなり、半島全域への勢力拡大を大きく後押ししました。