ヨーロッパの歴史

パルミラの女王ゼノビア――ローマ帝国に挑んだ謎の女傑とその最期

パルミラの女王ゼノビア――ローマ帝国に挑んだ謎の女傑とその最期

ゼノビア(その名はギリシャ語の「ゼウス」と「ビオス=生命」に由来する)は、古代末期において最も謎めいた人物の一人である。西暦240年頃に生まれた彼女は、自らをエジプトのクレオパトラの子孫と称し、プトレマイオス朝の血を引くと主張していた。この由緒は、ローマの歴史書『皇帝列伝(ヒストリア・アウグスタ)』にも記されている。また、ギリシャ語・アラム語・ラテン語に通じた才媛でもあった。彼女は、当時ローマの支配下にあったシリアの商業都市パルミラの領主オダエナトスと結婚した。

夫オダエナトスの死と権力掌握

ところが260年、皇帝ウァレリアヌスがペルシア(サーサーン朝)軍に敗れて捕虜となるという大事件が起こる。ペルシア軍はローマ東方属州へ略奪になだれ込んだが、これを撃破することに成功したのがオダエナトスであった。その功績により、ローマは彼をパルミラの従属王として認めた。

オダエナトスは以後もローマの同盟王として振る舞ったが、267年、先妻との間にもうけた息子で後継者のヘロディアヌスとともに暗殺されてしまう。パルミラの王座は空位となり、ここにゼノビアが権力を握った。当時の噂では、女王自身が夫の殺害に関与していたとも言われている。

ローマへの反旗――征服戦争の開始

独立心旺盛なゼノビアにとって、ローマへの従属は受け入れ難いものだった。都市内での権力基内での権力基盤を固め、軍を掌握すると、彼女は行動に移る。名将ザブダス率いるパルミラ軍はアラビア・ペトラエア(今日のヨルダン周辺)に侵攻し、ローマ軍を破って同地域を征服した。

続いてヨルダン渓谷へ進出し、さらにエジプトを併合して、ローマから豊かな属州を奪い取った。その後も小アジア(アナトリア)東部の広範な地域を占領し、その勢力圏は東はメソポタミア、南はエジプト深部にまで及んだと伝えられる。

アウレリアヌスの反撃

黙っているわけにはいかないローマは、新帝アウレリアヌスのもとでゼノビア討伐の大遠征を準備した。一方、パルミラ軍も強力だった。その戦力の中核をなすのは、有名な重装騎兵(キャタフラクト)である。騎手も馬も頭から爪先まで鎧で覆い、密集隊形を組んで長槍を突き出しながら、まるで動く城壁のごとく突撃した。

加えて、弓・小型の投槍・小盾を装備した軽騎兵も優れており、正規の弓兵部隊と非正規の軽歩兵部隊も擁していた。ただし弱点は、重装歩兵を一切持たなかったことである。これに対しアウレリアヌスは、手強い重装騎兵に対して正面からぶつかるのではなく、軽快で機動力のある騎兵を使って絶えず機動し、敵を翻弄せよと命じた。

ローマ軍の反攻は小アジアとアフリカの両方面から開始された。アウレリアヌス自身が小アジアを回復する間、別働隊がエジプトを奪回した。小アジア方面のローマ軍はほぼ無抵抗のままアンティオキアへ進軍し、市の近郊で初めてゼノビア軍と激突した。

絶え間ない機動で敵を消耗させたローマ騎兵は、ついにゼノビアの重装騎兵を打ち破り、パルミラ軍を後退させた。しかし、まだ勝負は決していない。両軍はエメサ(現在のシリアのホムス)で再び相まみえることになった。

エメサの決戦とパルミラの滅亡

エメサの会戦では、両軍とも約7万人の兵力を擁していた。今度はゼノビア側の重装騎兵が友軍の軽騎兵の支援を受けてローマ騎兵に突撃し、これを粉砕した。しかしその間にも、ローマの軍団兵はパルミラ軍の弓兵を次々となぎ倒していった。それまで名を馳せてきたパルミラの精鋭騎兵は、側面を衝かれて包囲され、四散した。

敗残兵はパルミラへ逃げ込み、アウレリアヌスはただちに都市を包囲した。さらなる抵抗が無意味と悟ったゼノビアは、ペルシアへの脱出を図ったが、ローマ軍に捕らえられた。こうしてパルミラ国家は滅亡したのである。

謎に包まれた最期

ゼノビアの運命については、史料ごとに見解が異なる。ローマの捕虜として食を拒んで死んだとする説、ローマに送られ、アウレリアヌスの凱旋式の後に斬首されたとする説、そしてアウレリアヌスが彼女をローマに住まわせ、邸宅を与え、ローマ人貴族と結婚させたとする説がある。

ただし、彼女の死は275年頃とされ、これはわずか35歳での死を意味する。この事実は、最後の説とは矛盾している。おそらくその血管にはギリシャの血が流れていたであろう、東方の謎めいた女王は、今なおその秘密を秘めたままである。

パルミラの女王ゼノビア――ローマ帝国に挑んだ謎の女傑とその最期

拡張の頂点におけるパルミラ国家の版図

パルミラの女王ゼノビア――ローマ帝国に挑んだ謎の女傑とその最期

ローマ人の捕虜となったゼノビア

パルミラの女王ゼノビア――ローマ帝国に挑んだ謎の女傑とその最期

パルミラにおける女王ゼノビア