ウッドロウ・ウィルソン大統領は、米国上院がベルサイユ条約を批准する可能性を高めるために、いくつかの戦略を取ることができました。以下では、彼が採用しえた具体的な方策を5つの観点から解説します。
1. 国内世論の支持を築く
広報活動の強化
ウィルソンは演説、記者会見、メディアへの出演などを通じた大規模な広報キャンペーンを展開し、条約の内容とその意義を国民に丁寧に伝えることができました。国際連盟の設立や将来の戦争防止といった前向きな側面を積極的に強調することで、世論の支持を取り付けることが可能だったでしょう。
草の根レベルの動員
全国の支持者や各種団体に働きかけ、嘆願書の署名活動、集会の開催、上院議員への手紙といった草の根運動を促すことで、条約に対する幅広い国民の支持を可視化することもできました。
2. 上院議員の懸念への対応
国際連盟に関する明確化
一部の上院議員は、国際連盟における米国の役割に懐疑的でした。ウィルソンは、国際機関内での米国の主権や意思決定の自律性について、より詳細な説明と保証を提供することで、こうした不安を和らげられたはずです。
第10条に関する妥協
条約第10条は、連盟加盟国の領土保全が脅かされた場合に米国が援助に赴くことを求めていました。この条項に反対する議員を宥めるため、留保条件や修正案の交渉による妥協を図ることができたでしょう。
3. 上院内での連合形成
有力議員との事前協議
条約を上院に提出して批准を求める前に、特に共和党指導部など影響力のある議員たちと綿密な協議を行い、彼らの留保や懸念に先回りして対応することが極めて重要でした。
超党派の政治的同盟
国際連盟や条約の理念に共感する与野党双方の議員に働きかけ、必要な票数を確保できる連合を形成することも、現実的な戦略の一つでした。
4. 連合国との交渉
条約内容の修正
特定の条項が承認の障害となっている場合、英仏などの連合国側と交渉し、条約の中核原則を損なわない範囲で修正や変更を行うことで、一部の議員の懸念に応えることが可能でした。
5. 大統領としてのリーダーシップ
自らの存在感の発揮
パリ講和会議での長期不在や健康問題により、批准プロセスにおけるウィルソンの影響力は次第に弱まっていきました。体調が許すのであれば、重要な上院審議に出席したり、議員と個別に面会したりして、条約支持を直接訴えることができたでしょう。
道徳的な説得力の活用
国際連盟構想の立役者としてのウィルソンの道徳的権威は、特に彼の名声や理想を尊重していた議員たちを説得するうえで、大きな武器になりえたはずです。
結論
これらの方策を実行したとしても、上院が実際にベルサイユ条約を批准したかどうかを断言することは困難です。条約への反対は強固で、しかも超党派に及んでおり、批准には3分の2という賛成多数が必要でしたが、それを確保することは最終的に不可能でした。それでも、こうした行動はウィルソンの主張を強化し、条約への支持を拡大する可能性を十分に秘めていたといえるでしょう。