ドミニコ会の修道士にして説教師であったヨハン・テッツェルは、免罪符に関する極めて大胆な主張を展開したことで知られています。彼によれば、免罪符には罪に対して科される現世での償い(時間的刑罰)と、来世における永遠の刑罰の両方を赦す力があるとされました。
「まだ犯されていない罪」まで赦されると主張
テッツェルの主張が特に物議を醸したのは、免罪符がまだ実際には犯されていない罪に対する刑罰までも免除しうると説いた点です。これは当時のカトリック教会の正式な教義よりもさらに踏み込んだ内容であり、免罪符を事実上「未来の罪の保険」のように扱うものでした。
煉獄の魂をも救えるという主張
さらにテッツェルは、免罪符を購入することで、すでに亡くなり煉獄で苦しんでいる死者の魂さえも救済できると訴えました。この主張は、亡くなった家族や親族を案じる人々の心に強く訴えかけるものであり、免罪符販売の大きな動機付けとなりました。
有名な宣伝文句
テッツェルの販売活動には、「櫃の中のコインがチャリンと鳴れば、魂は天国へ跳ね上がる(金箱のコインが鳴ると同時に、魂は煉獄から飛び出す)」という印象的な宣伝文句が用いられたと伝えられています。この誇張された商業的手法は、免罪符の宗教的意義を金銭取引へと貶めるものとして強い批判を受けました。
宗教改革の引き金となった過激な販売活動
テッツェルによるこうした攻撃的な免罪符の販売促進は、1517年にマルティン・ルターが『95カ条の提題』を発表する直接のきっかけの一つとなりました。ルターはテッツェルの主張に強く反発し、免罪符の濫用を痛烈に批判しました。この出来事がプロテスタント宗教改革の発端となったことは、歴史上よく知られています。
つまりテッツェルの主張とは、免罪符が罪の刑罰を未然に赦し、さらには煉獄の魂の救済さえも可能にするという、当時としては極めて過激なものであり、それが結果的にキリスト教世界を二分する大改革の火種となったのです。