第二次世界大戦中、イギリスはドイツ空軍の爆撃機がどこを攻撃するのかを事前に把握できることがありました。この驚くべき情報収集能力の鍵となったのが、ドイツ軍が使用していた暗号機「エニグマ」の解読です。
エニグマ暗号とは何か
エニグマは、ドイツ軍が軍事通信の暗号化に使用した電気機械式暗号機です。ローターの組み合わせによって膨大な数の暗号パターンを生成でき、当時の技術では解読はほぼ不可能とされていました。ドイツ軍は「エニグマは絶対に破られない」と確信し、作戦命令や部隊の移動など、極めて重要な情報をこの暗号で送信していました。
ブレッチリー・パークでの暗号解読
イギリスはロンドン北部のブレッチリー・パークに極秘の暗号解読施設を設置しました。そこには数学者アラン・チューリングをはじめとする優秀な頭脳が集められ、エニグマ暗号の解析に日夜取り組みました。
チューリングたちは、ポーランドの暗号研究者たちが戦前に蓄積した研究成果を受け継ぎ、さらに「ボンベ」と呼ばれる暗号解読専用の機械を開発しました。この機械により、ドイツ軍の無線通信を解読することが可能になり、イギリスは「ウルトラ(Ultra)」と呼ばれる貴重な諜報情報を手に入れたのです。
バトル・オブ・ブリテンへの影響
1940年のバトル・オブ・ブリテン(英本土航空戦)では、この暗号解読による情報が決定的な役割を果たしました。ドイツ空軍の攻撃目標や編隊の規模、飛行経路などの情報が事前にわかることで、イギリス空軍は限られた戦闘機を効率的に配備できました。
レーダー網からの情報と組み合わせることで、イギリス防空システムはドイツ爆撃機の編隊を迎撃する最適なタイミングを判断でき、結果として本土防衛に成功したのです。
歴史を変えた極秘作戦
興味深いことに、イギリスはこの情報源の存在を厳重に秘匿していました。もしドイツ側に暗号が破られていることが知れれば、暗号方式を変更され、貴重な情報源を失う恐れがあったからです。そのため、ウルトラ情報から得た戦果については、あらかじめ偵察機を飛ばすなどして、あたかも別の手段で情報を得たように見せかける工夫まで行われました。
歴史学者の中には、エニグマ暗号の解読によって戦争が約2年短縮されたと推定する者もおり、この極秘プロジェクトが連合国の勝利に多大な貢献を果たしたことは間違いありません。