「印刷機はヨーロッパで発明された」というのは、実はよくある誤解です。歴史的に見ると、印刷技術は中国で生まれ、その後アジア各地へ広まり、15世紀になってようやくヨーロッパに伝わりました。
世界最古級の印刷物は中国から
現存する最古の印刷物の一つとされるのは、唐代(7世紀頃)に中国で刷られた巻子本です。特に有名なのが、868年に刊行された仏教経典「金剛般若波羅蜜経」で、これは日付の確認できる印刷書籍としては世界最古とされ、現在は大英図書館に所蔵されています。当時の中国では木版印刷が広く普及し、経典や暦などが盛んに刷られていました。
活版印刷も中国・朝鮮が先駆け
さらに、一つひとつの文字を組み替えて使う「活版印刷」も、11世紀半ばの北宋時代に職人の畢昇(ひっしょう)が陶器製の活字を用いて考案したのが始まりとされています。その後、木製や金属製の活字も登場し、朝鮮半島では1377年に金属活字で印刷された「直指」が作られるなど、東アジアで活版技術が着実に発展していきました。
グーテンベルクとヨーロッパでの革新
こうした技術は交易路などを通じて西へ伝わり、15世紀半ばにドイツのヨハネス・グーテンベルクが金属活字を用いた印刷機を完成させました。1455年頃に刷られた「42行聖書」は、ヨーロッパにおける大量印刷時代の幕開けを象徴する出来事です。
なぜ「ヨーロッパ発明」と思われがちなのか
グーテンベルクの印刷機は、アルファベットという少数の文字種と相性が良く、機械による大量生産が容易でした。宗教改革やルネサンスといった社会変動と結びつき、知識革命を引き起こしたため、「近代印刷の発祥地」としてヨーロッパの印象が強くなったのです。しかし、技術そのもののルーツをたどれば、その原点は7世紀の中国にあります。
このように、印刷は中国で生まれ、アジアで磨かれ、ヨーロッパで産業として開花した技術だと言えます。「どこで発明されたか」だけでなく、「どこで社会を変える力を発揮したか」という視点で見ると、印刷技術の歴史の全体像がより鮮明に見えてきます。