ヨーロッパの歴史

ヒトラーが侵害した「世界人権宣言」の権利とは?破られた基本的人権の一覧

はじめに:ヒトラー政権と人権の蹂躙

アドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツは、ユダヤ人をはじめとする多くの人々に対して組織的な迫害を行い、人類史上最悪級の人権侵害を引き起こしました。第二次世界大戦後の1948年、国連はこうした悲劇を二度と繰り返さないための指針として「世界人権宣言」を採択しました。

ヒトラー政権の行動は、この宣言に掲げられた以下の基本的な権利をことごとく踏みにじるものでした。

侵害された主な権利の一覧

第1条:自由と平等の権利

すべての人間は、生まれながらにして自由であり、尊厳と権利において平等である。人間は理性と良心を授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
→ ナチス政権は特定の人種や民族を「劣等」とみなし、人間の平等を根本から否定しました。

第3条:生命・自由・安全の権利

すべて人は、生命、自由および身体の安全に対する権利を有する。
→ ホロコーストなどで数百万人の命が奪われた事実は、この権利の完全な否定といえます。

第5条:拷問や非人道的な扱いからの自由

何人も、拷問または残酷な、非人道的あるいは屈辱的な取り扱いや刑罰を受けない。
→ 強制収容所では、拷問や非人道的な実験が日常的に行われていました。

第9条:恣意的な逮捕・拘禁・追放の禁止

何人も、恣意的に逮捕、拘禁または追放されない。
→ 政治犯やユダヤ人が法的手続きもなく逮捕され、収容所へ送られました。

第12条:プライバシーと名誉の保護

何人も、私生活、家族、家庭または通信への恣意的な干渉、名誉や評判への攻撃を受けない。すべて人は、こうした干渉や攻撃に対する法的保護を受ける権利を有する。
→ ゲシュタポによる監視網と密告制度が、市民の私生活を徹底的に管理しました。

第18条:思想・良心・宗教の自由

すべて人は、思想、良心および宗教の自由に対する権利を有する。この権利には、宗教や信念を変える自由、単独でまたは他者と共に、公私の場で宗教や信念を表明する自由が含まれる。
→ ユダヤ教徒への迫害にとどまらず、反対立場の宗教者も弾圧の対象となりました。

第19条:意見・表現の自由

すべて人は、意見および表現の自由に対する権利を有する。この権利には、干渉されることなく意見を持つ自由、そしてあらゆる媒体を通じて国境を越えて情報や思想を求め、受け取り、伝える自由が含まれる。
→ プロパガンダの独占と報道統制により、言論は完全に抑え込まれました。

第20条:平和的集会・結社の自由

すべて人は、平和的な集会および結社の自由に対する権利を有する。
→ 反対政党や労働組合は解散させられ、集会の自由も厳しく制限されました。

第21条:政治参加の権利

すべて人は、直接または自由に選ばれた代表者を通じて、自国の政治に参加する権利を有する。
→ 一党独裁体制のもとで、国民は自由な選挙や政治参加の機会を奪われました。

第23条:労働の権利

すべて人は、働く権利、職業を自由に選ぶ権利、公正で好ましい労働条件の保障、失業に対する保護を受ける権利を有する。
→ 特定の人々は職を奪われ、強制労働に従事させられました。

第25条:健康で文化的な生活水準への権利

すべて人は、自己および家族の健康と福祉に十分な生活水準(食料、衣類、住居、医療、必要な社会サービスを含む)を保持する権利、ならびに失業、疾病、障害、老齢などの際に保障を受ける権利を有する。
→ ゲットーや強制収容所での極限的な環境は、この権利を根本から否定するものでした。

第27条:文化生活への参加の権利

すべて人は、共同体の文化生活に自由に参加し、芸術を楽しみ、科学の進歩とその恩恵にあずかる権利を有する。
→ 「退廃芸術」の弾圧や書籍の焚書など、文化活動は厳しく統制されました。

第29条:共同体に対する義務と権利行使の制限

すべて人は、人格の自由かつ完全な発展が可能となる共同体に対して義務を負う。権利と自由の行使には、他者の権利の尊重や民主的社会における公共の福祉のために法律で定められた制限のみが課される。
→ ナチス政権は「国家の利益」を口実に、個人の権利を無制限に制限しました。

第30条:権利破壊行為の禁止

この宣言のいかなる規定も、ここに認められた権利や自由を破壊する活動や行為に従事する国家、集団または個人の権利を意味するものと解釈してはならない。
→ 国家そのものが人権破壊の主体となったナチス・ドイツの暴虐は、まさにこの条文が防ごうとしたものです。

まとめ

ヒトラー政権による人権侵害は、世界人権宣言が掲げるほぼすべての基本的人権に抵触するものでした。この歴史的な惨禍こそが、戦後における国際的な人権保障体制を築く大きな契機となったのです。過去の教訓を胸に刻み、人権の大切さを再確認することが重要です。