ヨーロッパの歴史

イングランドとスペインの戦争――エリザベス1世とフェリペ2世、どちらに大きな責任があるのか?

エリザベス1世率いるイングランドと、フェリペ2世率いるスペインの間で起きた戦争について、「どちらの君主により大きな責任があるのか」という論争は、歴史学における複雑なテーマの一つです。両君主とも紛争の発生に重要な役割を果たしましたが、歴史的背景や解釈の違いによって、見方が分かれるのが実情です。ここでは、この問題を考えるうえでの重要なポイントを整理して解説します。

対立の原因となった三つの要因

1. 宗教的対立

プロテスタント国家となったイングランドと、カトリックの牙城スペインとの宗教的な違いは、両国関係における最大の火種でした。エリザベスはプロテスタント勢力を支援し、一方のフェリペ2世はヨーロッパ各地の宗教紛争においてカトリック側を擁護しました。この対立が特に顕著だったのがネーデルラントです。同地ではプロテスタント勢力がスペインのカトリック支配からの独立を求めて戦っており、両国の思惑が直接ぶつかる場となりました。

2. 経済的競争

大西洋における貿易と覇権をめぐる競合も、対立を深刻化させました。フランシス・ドレークに代表されるイングランドの私掠船(私掠海賊)は、スペイン船舶を襲撃・拿捕し、新大陸の富を独占するスペインの覇権に挑戦しました。こうした経済上の敵対関係が、両国間の緊張と相互攻撃を助長することになったのです。

3. スペイン無敵艦隊(アルマダ)

1588年、フェリペ2世は「無敵艦隊(アルマダ)」と呼ばれる大艦隊を派遣し、イングランド侵攻とエリザベス打倒を図りました。しかしアルマダは壊滅的な敗北を喫し、これはスペインにとって重大な挫折であると同時に、両国関係を決定的に悪化させる出来事となりました。

エリザベス1世の役割

  • プロテスタント信仰の擁護: オランダ独立戦争への支援やフランスのユグノーへの援助など、プロテスタント勢力への支持は、カトリックの利益を守ろうとするフェリペ2世との衝突を招きました。
  • 海上略奪の黙認: ドレークらイングランドの私掠船によるスペイン船への海賊行為を事実上容認し、宝物船の拿捕やスペインの交易路の攪乱を許してきました。
  • 外交上の摩擦: カトリックのイングランド王位継承権者だったスコットランド女王メアリーの処刑や、フェリペ2世の対抗者への支援など、その政策と行動は外交的な緊張を一層高めました。

フェリペ2世の役割

  • 宗教戦争としての視点: フェリペ2世はこの紛争をプロテスタント国家イングランドに対する宗教的な聖戦と捉え、カトリックの再確立を目指しました。
  • スペイン覇権の防衛: 広大な帝国と海洋支配を維持しようとするスペインの権益は、台頭するイングランド海軍の挑戦を受けており、これを守ることが優先課題でした。
  • イングランドへの報復: イングランドの海賊行為への懲罰、フランスにおけるカトリック同盟への支援、そして最終的にはエリザベスの廃位といった目的から、アルマダ派遣という決断に至ったのです。

責任の所在はどこにあるのか

結局のところ、この戦争の責任をどちらかに一方的に帰すことは困難です。政治的・宗教的・経済的な動機が複雑に絡み合い、長期にわたる紛争へと発展したためです。歴史家たちの解釈も、各国の視点や各要因への重み付けによって異なります。フェリペ2世の宗教的動機を重視する専門家もいれば、エリザベスの反スペイン活動への支援を強調する研究者もいます。

つまり、この問いに明確な答えはないものの、両君主の行動と当時の時代背景を多角的に検討することが、この歴史的紛争を深く理解する鍵となるでしょう。