
人間と市民の権利の宣言とは
「人間と市民の権利の宣言」(Déclaration des droits de l'homme et du citoyen)は、1789年8月20日から26日にかけてフランス国民議会の審議を経て採択され、同年10月5日に国王ルイ16世の承認を受けた歴史的文書です。フランス革命の思想的支柱となったこの宣言は、後に成立するフランス憲法の前文に組み込まれ、近代立憲主義および世界の人権思想の出発点として位置づけられています。
以下に、宣言の前文および全17条を日本語訳でお届けします。
前文
国民議会を構成するフランス人民の代表者たちは、人間の権利に対する無知、忘却、あるいは軽視こそが、公的な不幸と政府の腐敗の唯一の原因であると考えました。そこで彼らは、人間の生得の、譲渡不可能で、神聖な諸権利を荘重な宣言として明らかにすることを決議しました。
この宣言が社会体のすべての成員にとって常に眼前に置かれ、その権利と義務を絶えず思い起こさせることができるように。立法権の行為、そして随時にあらゆる政治制度の目的と比較されうる行政権の行為が、より一層尊重されるように。さらに市民の請求が、今後は単純で争いようのない原則に基づくものとなり、常に憲法の維持と万人の幸福の増進へと結実するように。
それゆえ、国民議会は、最高存在の御前において、またその加護の下に、人間および市民の以下の諸権利を承認し、宣言します。
本文 全17条
第一条 人は、自由かつ権利において平等なものとして出生し、かつ生存する。社会的区別は、共同の利益に基づく場合にのみ設けることができる。
第二条 一切の政治的結合の目的は、人間の自然的で時効によらない諸権利を保全することにある。これらの権利とは、自由、所有、安全、および圧制への抵抗である。
第三条 主権の本質は、主として国民にある。いかなる団体も、いかなる個人も、これから明示的に発しない権限を行使することはできない。
第四条 自由とは、他人に害を与えない限りにおいて、あらゆることを行いうることである。したがって、各人の自然権の行使には、社会の他の構成員が同一の権利を享受できることを保障する限界以外の限界は存在しない。これらの限界は、法律によってのみ定められる。
第五条 法律は、社会に有害な行為のみを禁止する権利をもつ。法律によって禁止されていないことは妨げられず、法律が命じていないことを、何人も強制されることはない。
第六条 法律は一般意志の表現である。すべての市民は、自らまたは代表者を通じて、その形成に参与する権利をもつ。法律は、保護する場合にも処罰する場合にも、すべての人に対して同一でなければならない。すべての市民は法律の前で平等である以上、能力に応じて、徳と才覚以外のいかなる差別もなく、すべての名誉職・公職・官職に等しく就任することができる。
第七条 何人も、法律の定める場合において、かつ法律の定める形式に従うのでなければ、告発され、逮捕され、拘禁されない。恣意的な命令を求め、発布し、執行し、あるいは執行させる者は、処罰されなければならない。ただし、法律に基づいて召喚または逮捕された市民は、直ちに従わなければならず、抵抗すれば自ら罪を負うことになる。
第八条 法律は、厳格かつ明白に必要な刑罰のみを定めることができる。何人も、犯行前に制定・公布された法律に基づき、適法に適用された場合を除いて、処罰されることはない。
第九条 何人も、有罪と宣告されるまでは無罪と推定される。逮捕が不可欠と認められる場合であっても、身柄の確保に不要な一切の苛酷な措置は、法律によって厳しく処罰されなければならない。
第十条 何人も、その表明が法律の定める公共の秩序を乱さない限り、意見について――たとえそれが宗教上の意見であっても――干渉されるべきではない。
第十一条 思想と意見の自由な伝達は、人間のもっとも貴重な権利の一つである。したがって、すべての市民は、法律の定める場合においてこの自由の濫用について責任を負うことを条件として、自由に言論し、著作し、出版することができる。
第十二条 人間および市民の権利を保障するためには、公権力が必要である。この力は、すべての人の利益のために設けられるものであって、それを委ねられた者の特別な利益のためのものではない。
第十三条 公権力の維持および行政の経費のためには、共同的な負担が不可欠である。それは、各人の能力に応じて、すべての市民の間に平等に配分されなければならない。
第十四条 すべての市民は、自らまたは代表者を通じて、公共の負担の必要性を確認し、これに自由に同意し、その使用を監視し、さらにその額、課税基準、徴収方法および期間を決定する権利をもつ。
第十五条 社会は、すべての公務員に対して、その行政について説明責任を問う権利をもつ。
第十六条 権利の保障が確保されず、権力分立が定められていない社会は、憲法をもたない。
第十七条 所有権は不可侵かつ神聖な権利である。何人もこれを奪われることはない。ただし、合法的に認定された公共の必要性が明らかにそれを要求する場合で、公正かつ事前の補償という条件が満たされる場合は、この限りではない。
宣言の歴史的意義
この宣言は、王権神授説や身分制度に支配された旧体制(アンシャン・レジーム)を否定し、「主権在民」「法の前の平等」「罪刑法定主義」「無罪推定」「信教の自由」「言論の自由」「私有財産の不可侵」といった近代国家の基本原理を初めて体系的に文章化しました。アメリカ独立宣言と並び、今日の国際人権規約や各国憲法にまで連なる普遍的人権理念の源泉として、今なお高く評価されています。