アイルランドのジャガイモ大飢饉を引き起こしたカビとは?
19世紀のアイルランドを襲ったジャガイモ大飢饉(1845年~1852年)の原因となったのは、Phytophthora infestans(疫病菌)という微生物です。この病原体が引き起こす病気は「晩疫病(ばんえきびょう)」と呼ばれ、ジャガイモの葉や茎、そして地下のイモ自体を急速に腐敗させます。
晩疫病の猛威
当時のアイルランドでは、貧しい農民の主食としてジャガイモが欠かせない存在でした。しかし、Phytophthora infestansは湿潤で涼しい気候の中で爆発的に繁殖し、わずか数日のうちに畑一面のジャガイモを黒く変色させて枯らしてしまいました。
この病害は何年にもわたって発生を繰り返し、ジャガイモの収穫は壊滅的な打撃を受けました。その結果、アイルランド全土に深刻な飢餓と貧困が広がり、約100万人が餓死や病気で命を落とし、さらに100万人以上が国外へ移住するという、歴史上最悪級の人道的惨事につながりました。
「カビ」という分類について
Phytophthora infestansは一般的に「カビ」と呼ばれますが、厳密には真菌類ではなく、卵菌類(らんきんるい)という藻類に近いグループに属する微生物です。学名の「Phytophthora」はギリシャ語で「植物を破壊するもの」を意味しており、その名の通り農作物にとって非常に危険な病原体です。
現在でも晩疫病は世界のジャガイモ生産における最大の脅威の一つとされており、耐性品種の開発や防除技術の研究が続けられています。