植民地時代(主に17〜18世紀のアメリカ植民地)の子どもたちは、親に対して敬意と恭順の念を示すため、今日よりもずっと格式高い呼び方をしていました。使われる呼称は、地域や文化、そして家庭の社会的階層によって大きく異なっていたのです。
ここでは、当時よく見られた親への呼び方を、代表的なものから順に紹介します。
1. Father / Mother(ファーザー/マザー)
最も直接的で広く使われていたのがこの呼び方です。子どもたちは親に話しかける際にも、他の人に親について語る際にも、「Father(父)」「Mother(母)」という言葉を使いました。フォーマルさと日常性のバランスが取れた、標準的な呼称だったといえます。
2. Papa / Mama(パパ/ママ)
「Father」「Mother」のくだけた言い方として親しまれていたのが「Papa」「Mama」です。格式張らず、親しみと愛情が込められた呼び方で、家庭内の日常的な会話によく用いられました。現代の「パパ」「ママ」につながる呼び方の原型ともいえます。
3. Sir / Ma'am(サー/マダム)
より格式高い場面、とりわけ上流階級の家庭では、子どもたちは自分の親に対してさえ「Sir(サー)」「Ma'am(マダム)」と呼びました。これは現代の感覚では想像しにくいことですが、当時は親への深い敬意と礼儀正しさを示す重要な作法とされていました。
4. Mister / Missus(ミスター/ミセス)
場合によっては、「Mister(ミスター)」「Missus(ミセス)」という正式な敬称が使われることもありました。これは特に、父親が地主や役人など高い社会的地位や権威ある立場にあった家庭で多く見られました。親子関係よりも社会的序列を強調する呼び方だといえるでしょう。
5. 下の名前(ファーストネーム)
きわめてくだけた場面、特に仲の良い家族内では、子どもが親の下の名前で呼ぶこともありました。ただしこれは例外的なケースで、一般には好まれず、親密でプライベートな状況に限られることがほとんどでした。
6. Honorable / Reverend(オナラブル/レヴェレンド)
父親が判事、牧師、地方の名士など、地域社会で尊敬される人物だった場合、子どもは父を「Honorable(オナラブル=閣下)」や「Reverend(レヴェレンド=牧師様)」と呼ぶことがありました。これは単なる家族内の呼び方にとどまらず、父親の公的な地位と社会的威信への敬意を示すものでした。
呼び方を分けていたものは何か
注目すべきは、これらの呼び方が厳格に統一・強制されていたわけではないという点です。ピューリタン色の強いニューイングランド地方では宗教的規範に基づく堅苦しい呼び方が好まれた一方、南部植民地では階級意識が呼称に反映されるなど、地域差も顕著でした。
文化、地域、社会階層といった複数の要素が絡み合い、この時代ならではの親子の呼び方が形作られていたのです。子どもから親への呼び方は、単なる言葉の問題ではなく、当時の家族観や権威観を映し出す鏡だったといえるでしょう。