古代の歴史

テレマコスは母について何を尋ねたのか?――ホメロス『オデュッセイア』の場面を解説

ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』において、テレマコスは変装した姿で現れた女神アテナに対し、母が今どこにいるのか、そしていつ家に戻ってくるのかを尋ねます。

場面の背景――帰らぬ父と待ち続ける母

テレマコスは、英雄オデュッセウスとその妻ペネロペの息子です。トロイア戦争が終わっても父は長い間帰還せず、母ペネロペはイタケーの館で夫の帰りをひたすら待ち続けていました。

ところがその一方で、ペネロペに言い寄る求婚者たちは館に居座り込み、酒食を尽くしながら彼女に再婚を迫っていました。母の動向は、テレマコスにとって家と財産の存続そのものに関わる切実な問題だったのです。

この問いに込められた意味

母の所在と帰還の時期を尋ねる問いには、単なる安否確認以上の重みがあります。もし母が実家へ戻って別の男性と再婚すれば、家は求婚者の手に落ち、父が生きて戻るという望み自体が絶たれてしまうからです。

こうした不安を抱えながら、大人への第一歩を踏み出そうとするテレマコスの姿は、物語序盤の「テレマキア」と呼ばれる成長譚の核心をなす一幕となっています。

アテナの変装という演出

なお、この場面でアテナはタポス人の王メンテースに化身してテレマコスのもとを訪れます。神が人間の姿を借りて青年を導くという手法は、その後も「メントール」の姿で繰り返され、物語全体を支える重要なモチーフとなっています。