ビクトリア朝時代のイギリスにおいて、「フィンガースミス(fingersmith)」とは、すり(ピックポケット)を指す言葉として使われることがありました。直訳すると「指の職人」という意味を持つこの呼称は、ポケットから品物を抜き取ることに長けた窃盗の専門家たちを表していました。
フィンガースミスの手口
当時のすりは、高度な技術を持った泥棒であり、通常は二人一組で活動していました。一人が標的となる被害者の注意を引きつける役割を担い、もう一人がその隙を狙って巧みに財布や貴重品を盗み出すという連携プレーが基本でした。
彼らは「目くらまし(ミスディレクション)」と手先を使った巧妙な技巧(スレイト・オブ・ハンド)を駆使し、被害者が気づかないうちに品物を奪い去りました。混雑した街路や市場、劇場など、人混みの中でこそ彼らの腕前が発揮されたといわれています。
女性が多かった理由
興味深いことに、フィンガースミスには女性が多い傾向がありました。当時の社会では、女性に対する警戒心が比較的薄かったため、彼女たちは自身の性別や外見を利用して、被害者の油断を誘ったり、疑いを回避したりすることができたのです。
このような背景から、フィンガースミスはビクトリア朝の都市社会における影の存在として知られ、サラ・ウォーターズの小説『指匠(Fingersmith)』など、後世の文学作品にも題材として取り上げられています。