古代の歴史

「ローマ人も私たちと同じようにセックススキャンダルが大好きだった」――エマ・サウスンが語るアグリッピナと古代ローマの真実

「ローマ人も私たちと同じようにセックススキャンダルが大好きだった」――エマ・サウスンが語るアグリッピナと古代ローマの真実

歴史書『アグリッピナ――ローマ帝国最初の女帝』の著者エマ・サウスン氏へのインタビューをお届けする。同書は、ユリウス・クラウディウス朝の政治を陰で支えた強烈な女性アグリッピナの生涯を、現代的で口語的な文体で描き出した話題作だ。今回は、その執筆姿勢や著者の古代ローマ観について、議論の核心を紹介したい。

口語的な文体が生む親しみやすさ

まず目を引いたのは、同書で用いられている非常に口語的な文体である。堅苦しい学術書ではなく、現代のフィクションを読むような感覚で古代ローマの世界へ入っていける。このアプローチは、カジュアルな読者にとって物語をぐっと身近なものにしている。

私たちが抱く「ローマ像」自体が、新古典主義の伝統による偏りを色濃く受けている。だからこそ、既成の枠組みにとらわれない筆致が新鮮に映るのだ。

ティベリウスからクラウディウスまで――皇帝たちは意外と「間抜け」?

ティベリウス、カリグラ、クラウディウスといった歴代皇帝たちを改めて見直すと、必ずしも立派な人物像にはならない。むしろ、ある程度「愚か」と映る場面も多い。神格化されがちな皇帝像に対するこうした人間臭い描写は、私たちの固定観念を揺さぶる。

なぜ共和政の危機期に「強い女性」が現れたのか

共和政ローマの末期から帝政の始まりにかけて、政治の表舞台に立つ強力な女性たちが次々と登場する。これは偶然ではない。権力構造が流動化する混乱の時代だからこそ、女性が政治的役割を担う余地が生まれたのである。実際、後のセウェルス朝の危機においても、再び女性たちが大きくクローズアップされることになる。

そしてこの現象は現代にも通じる。アンゲラ・メルケルやテリーザ・メイのように、政治家が性別ゆえに攻撃される光景は今も珍しくない。「これはいつか変わる日が来るのか」という問いは、現代にこそ重くのしかかる。

「アグリッピナは女だからクラウディウスを殺せなかった」?

一方で、「アグリッピナは女性だったからクラウディウスの殺害は不可能だった」と考える向きもある。まるで女性は権力欲を抱けないかのような前提だが、本当にそうだろうか。女性にも野心と権力への渇望があり得る、というごく当然の視点を、こうした反論は忘れてしまっている。

ロバート・グレイヴズの影と、乏しく偏った史料

ユリウス・クラウディウス朝に対する私たちの見方は、いまだにロバート・グレイヴズの作品群の影響下にある。ここで重要なのは、利用できる史料が極めて少なく、しかも出来事から長い時間が経ってから書かれたものであり、強い偏りを含んでいるという事実だ。

もしヘルクラネウムの炭化したパピルスの中から、新しい史料がふいに現れたら――そんな想像を膨らませずにはいられない。

権力ある女性には「セックススキャンダル」ばかり

メッサリーナやアグリッピナのような権力ある女性を語る際、古代の史料は性的な逸話ばかりを強調する。ローマ人自身も、私たちと同じようにセックススキャンダルが大好きだったのだろう。そして「自分をコントロールできない女性」というグレコ・ローマン的なステレオタイプは、公共生活から女性を排除する論理として、長く受け継がれてきた。

過去の女性に現代の価値観を投影していいのか

現代において、古典世界の歴史を女性の視点から書くことは可能だろうか。同時に、過去の女性に現代的な価値観を投影することには注意が必要だ。メッサリーナやアグリッピナは決して天使ではなく、当時の男性たちと価値観を共有していた可能性が高い。彼女たちを単なる被害者や英雄として美化することも、また別の歪みなのである。

カリグラはそれほど悪くなかった? ネロとの比較

少し主観的な話題になると、著者にとってカリグラはそれほど悪い皇帝ではなかった様子だ。ではネロはどうか。ネロの性格形成には、幼少期の教育が深く関わっていたと考えられる。母アグリッピナによる徹底的な帝王教育が、彼の人格に大きな影を落としたのかもしれない。

「五賢帝」という呼び名への疑問

ユリウス・クラウディウス朝について読めば読むほど、ウェスパシアヌスが好きになっていく、という声もある。そもそも「五賢帝」という呼び名自体が、新古典主義とギボンへの負債を示している。ハドリアヌスがユダヤ人にとって、トラヤヌスがダキア人にとって「良き皇帝」に見えたとは、とても思えないのだ。

古代史は今日も重要か

最後に投げかけられたのは、「古代史は現代においても重要なのか」という根源的な問いだった。答えは明白だろう。私たちの社会、政治、ジェンダー観の多くは古代にルーツを持ち、過去を省みることは、現在を理解することにほかならない。

歴史への愛を分かち合えることに感謝を込めて。ありがとう、エマ!

「ローマ人も私たちと同じようにセックススキャンダルが大好きだった」――エマ・サウスンが語るアグリッピナと古代ローマの真実

書籍情報

Agrippina: The First Empress of Rome(アグリッピナ――ローマ帝国最初の女帝)

  • ISBN:978-84-948208-7-8
  • ページ数:270ページ
  • 著者:エマ・サウスン(Emma Southon)
  • 出版社:Past & Present