ムガール帝国(1526年~1857年)の皇帝とその后妃たちは、自らの地位と富を象徴する豪華絢爛な衣装を身につけていました。絹、ブロケード、ベルベットなどの高級素材に、金糸銀糸の刺繍や宝石をふんだんに施した宮廷服は、まさにインド・イスラーム文化の粋を集めた芸術品と言えます。ここでは、ムガール宮廷で実際に着用された代表的な衣装の種類とその特徴をご紹介します。
皇帝が着用した主な衣装
ジャーマ(Jama)
ジャーマは、ムガール皇帝の正装として最もよく知られる長丈のゆったりした外衣です。シルク、ブロケード、ベルベットなどが用いられ、膝丈かそれ以上の長さで長袖が特徴。刺繍や宝石、金糸細工などの華やかな装飾が施され、皇帝の威厳を際立たせました。
クルタ(Kurta)
クルタはジャーマを短くしたような丈の上着で、ウエスト丈かやや長め程度のサイズです。こちらも上質な生地で仕立てられ、凝った装飾がほどこされることが多いものでした。
アンガルカー(Angarkha)
アンガルカーは主に男性が着用した長丈のチュニック型の上着です。V字型の襟ぐりと長袖を持ち、ウールやブロケードといった厚手の生地で仕立てられることが多く、涼しい季節の宮廷服として重宝されました。
ペシャワーズ(Peshawazi)
ペシャワーズは男女ともに着られた体にフィットする長いコートです。ウールや厚手のコットンで作られ、立ち襟と長袖が特徴で、格式高い場面で着用されました。
シャルワール(Shalwar)
シャルワールは腰元でギャザーを寄せ、足首に向かって細くなるゆったりとしたズボンです。コットンやシルク製で、無地のものから柄入りのものまでさまざま。ジャーマやクルタの下に合わせて穿かれました。
カマルバンド(Kamarband)
カマルバンドは男女ともに身につけた腰帯(サッシュ)です。シルクやブロケードで作られ、無地のものもあれば、宝石や装飾が施された豪華なものもあります。衣装全体のアクセントとして欠かせない存在でした。
サルペーチ(Sarpech)
サルペーチは男性がターバンに取り付けた宝石細工の飾りです。金や銀を土台に、ダイヤモンドやエメラルド、真珠などをあしらった精巧な作品が多く、皇帝の権威を示す象徴的なアイテムでした。
皇后・女性が着用した主な衣装
レヘンガ(Lehenga)
レヘンガは女性が穿いたロングスカートです。シルクやコットンで作られ、無地のものから華やかな柄物まで多彩。豊かなボリューム感のあるシルエットが特徴で、宮廷の女性たちに深く愛用されました。
チョリ(Choli)
チョリはレヘンガと合わせて着る短丈のフィットしたブラウスです。レヘンガと同じ生地で仕立てられるのが一般的で、刺繍や宝石、さまざまな装飾がほどこされた豪華なものが多く見られました。
ドゥパッタ(Dupatta)
ドゥパッタは頭と肩に掛ける長く軽いスカーフです。透け感のある薄手の生地が使われ、精巧な刺繍やプリントが施されることもありました。装いに優雅さと気品を添える必需品でした。
その他の装身具
ジューティ(Jootis)
ジューティは革製の履物で、男女ともに着用しました。精巧な刺繍や装飾がほどこされたものが多く、宮廷人の足元を彩る重要な小物でした。
このように、ムガール帝国の宮廷衣装は、素材選びから装飾技術に至るまで極めて高い水準を誇り、当時のインド亜大陸における織物文化と工芸技術の頂点を今に伝えています。