古代の歴史

文字を持たなかったインカ帝国は、どうやって情報を記録していたのか?

南米に栄えたインカ帝国は、驚くべきことに文字というものを持たない文明でした。それにもかかわらず、広大な領土を統治し、人口調査や税収管理、歴史の伝承まで行っていたのです。その秘密を担っていたのが、「キプ(キープ)」と呼ばれる結び目を使った記録システムでした。

キプとは何か?

キプは、複数の色付きの紐(ひも)を束ねて作られた記録道具です。一本一本の紐にはそれぞれ役割があり、色や太さ、素材の違いによって、数値・出来事・伝達メッセージなど、異なる種類の情報を表していました。

さらに重要なのが結び目です。結び方や位置によって特定の数値や概念が示され、これらを丁寧に配置し解釈することで、インカの人々は複雑なデータを正確に記録することができました。

どのように使われていたのか?

キプは主に次のような目的で活用されていたと考えられています。

  • 人口統計:各村落の人数や年齢構成の記録
  • 税収・貢納の管理:穀物や家畜などの収蔵量の把握
  • 軍事情報:兵士の数や物資の輸送記録
  • 暦や歴史の伝承:出来事や年代の記憶の補助

読み解く専門家「キプカマヨック」

キプを扱うことができたのは、キプカマヨックと呼ばれる訓練を受けた専門官だけでした。彼らは結び目の意味を記憶と組み合わせて解釈し、長い距離を越えて情報を伝達しました。アンデスの険しい山岳地帯に張り巡らされた道路網とともに、キプは帝国の行政を支える生命線だったのです。

現代に残る謎

スペインによる征服後、多くのキプは焼却されましたが、現在でも数百本が残されています。数値の記録方法についてはある程度解明されていますが、物語や言葉を記録していた可能性を指摘する研究者もおり、キプの完全な解読は今なお進められている考古学最大の謎の一つです。