青銅器時代から使い続けられる奇跡の石橋
ギリシャ・アルゴリス地方には、古代都市ミケーネやティリンスとエピダウロスを結んだ街道沿いに、青銅器時代に建造された4つの石橋が今なお残されています。
その中でも「カザルマ橋」(別名:アルカディコ橋)として知られる橋は、世界最古級の橋の一つとされ、ヨーロッパに現存する橋の中では最も古く、しかも現在も実際に使用されていることで有名です。
カザルマ橋の場所と姿
カザルマ橋は、ナフプリオからリグリオへ向かう現代の幹線道路の15キロメートル地点から約25メートル北、アギオス・イオアニス村の西方140メートル、カザルマのアクロポリスの南西に位置しています。小ぶりで素朴なその姿は、ミケーネの要塞建築に典型的な巨大な「キュクロプス式」の石積みとの対比が印象的です。

紀元前1300年頃に建造された4つの橋のうち、今日まで地元の農民や住民に使われ続けているのは、このカザルマ橋だけです。同じ川を渡るペトロゲフィリ橋はスパンが大きくアーチもやや高めですが、すでに通行不可能となっており、アルカディコ近郊にあるもう一つの橋に至ってはほぼ崩壊し、土砂に埋もれてしまっています。
モルタル一切不使用の石積み技術
カザルマ橋は、巨大なキュクロプス式の石ブロックを積み上げて造られた持ち送り式アーチ(コーベルアーチ)のヴォールト構造を特徴とします。モルタルやセメントといった接合材は一切使われておらず、石と石の隙間には小さな石を詰めることで全体を安定させています。
開口部のスパンは約1メートル。構造全体は長さ22メートル、基部の幅5.60メートル、高さ4メートルにおよびます。

橋の天端を通る道路の幅は2.50メートル。この幅は、当時の戦車(チャリオット)が問題なく通行できるよう意図して設計されたものです。
リコトルピにも残る姉妹橋
アルゴリス北部のリコトルピ周辺地域には、同時期に建造されたもう一つの橋が残されています。その寸法はカザルマ橋に近く、基部の幅が5.20メートル、上部が2.40メートル、開口部はわずか1メートル余りです。興味深いことに、ここの道路には縁石が残されており、戦車を正しい進路へ導く役割を果たしていたと考えられています。

ミケーネの道路網と卓越した工学
これらの橋はすべて、ミケーネの各中心地とパレア・エピダウロス港を結ぶ街道網の一部でした。ミケーネの道路は丘の斜面に沿って敷設され、擁壁によって補強されていました。
その設計思想は、できるだけ短い経路を追うことではなく、戦車が難なく通行できるよう、いかに平坦で幅広の道を実現するかにありました。また、当時は馬に蹄鉄を付ける習慣がまだなかったため、路面は土と緩い砂利による舗装のみで覆われていたのです。