2012年、研究者エマニュエル・シャルパンティエとジェニファー・ダウドナは、遺伝子編集ツール「CRISPR-Cas9」を開発しました。この革命的な発見は数多くの応用可能性を秘め、両氏に数々の栄誉をもたらすこととなります。2017年には、Nob'Elles賞の化学部門が彼女たちに授与されました。
エマニュエル・シャルパンティエ
1968年12月11日、フランスのジュヴィジー=シュル=オルジュに生まれたエマニュエル・シャルパンティエは、ピエール・マリー・キュリー大学で生化学と微生物学を学びました。1995年にパスツール研究所で微生物学の博士号を取得した後、アメリカ合衆国でポストドクター研究員として研鑽を積みます。2002年から2009年にかけてはウィーンで客員教授、その後助教を務め、さらにスウェーデン北東部のウメオ大学では研究チームを率いました。
生化学者・微生物学者・遺伝学者として、彼女は特に微生物RNAの観点からの遺伝子発現の研究や、細菌がウイルスに対して示す防御機構の解明に取り組んできました。そして2009年、カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナとの共同研究を開始します。
ジェニファー・ダウドナ
学者の家庭に生まれ、1964年2月19日にワシントンD.C.で誕生し、ハワイ州で育ったのがジェニファー・ダウドナです。カリフォルニア州のポモナ・カレッジで化学を専攻し、ハーバード大学ではリボザイムに関する研究で博士号を取得しました。学位取得後はコロラド大学ボルダー校でポスドク研究を行い、その後カリフォルニア大学バークレー校に移っています。
遺伝学者であり、生化学・分子生物学の教授でもあるジェニファーは、RNA研究の第一人者です。2002年には米国科学アカデミーの会員に選出されました。そして2009年、エマニュエル・シャルパンティエとの共同研究を開始することになります。
CRISPR-Cas9とは何か
2012年、両研究者は共同研究の成果である遺伝子編集ツール「CRISPR-Cas9」を発表しました。CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats=「クラスター化され、規則的な間隔で配置された短い回文配列」)は、DNA上に存在する反復配列で、DNAの「認識システム」として機能します。一方のCas9は、DNA二本鎖を切断できる酵素(エンドヌクレアーゼ)です。この二者を組み合わせたCRISPR-Cas9は「分子のはさみ」とも呼ばれ、ゲノムの編集、DNAの切断、遺伝子の不活性化や導入などを可能にします。
この発見は、発表直後から大きな反響を呼びました。基礎研究、医療、バイオテクノロジーなど、応用分野は実に多岐にわたります。シンプルかつ低コストで実行できる手法であることから、重篤な疾患に対する新たな治療アプローチへの道も開かれています。
その一方で、遺伝子操作技術とその応用には懸念の声も上がっています。エマニュエル・シャルパンティエとジェニファー・ダウドナ自身も、早くからCRISPR-Cas9の使用に伴うリスクについての見解を表明しており、特に胚の遺伝子操作に関しては慎重な姿勢を示しています。
発見後の歩み
研究成果の発表後、二人はすぐに数々の賞と国際的な評価を受けることになりました。2015年には「ブレイクスルー賞(生命科学部門)」と「アストゥリアス皇太子賞」を受賞し、2016年には「ロレアル・ユネスコ女性科学者賞」に輝いています。また、エマニュエルは同年、ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ賞も受賞しました。
発見の後、二人の研究者はそれぞれ、CRISPR-Cas9の活用を目指す研究企業を立ち上げています。現在はドイツで活動し、ベルリンのマックス・プランク感染生物学研究所の所長を務めるエマニュエルは、難病との闘いに特化したCRISPR Therapeutics社を設立。一方、引き続きカリフォルニア大学バークレー校で研究を続けるジェニファーは、Intellia Therapeutics社を創業しました。二人は今日もなお、この遺伝学における画期的な発見の研究を続けています。