バイユー・タペストリーは、1066年に起きたノルマン人のイングランド征服(ノルマン・コンクエスト)に至る経緯を描いた、全長約70メートルに及ぶ巨大な刺繍布です。11世紀後半、おおよそ1077年頃に制作されたと考えられており、当時の出来事を視覚的に伝える貴重な史料として知られています。
なぜ「正確」と評価されるのか
バイユー・タペストリーは、ノルマンディー公ギヨームによるイングランド侵攻に至る一連の出来事を、事件からわずか10年ほど後に制作された記録として、概ね正確な描写であると一般に評価されています。登場人物の服装や武器、船の構造、城塞建築の様子など、11世紀の実像を細部まで表現しており、中世史研究において重要な参考資料となっています。
ただし「完全に正確」ではない点に注意
一方で、このタペストリーを完全に正確な歴史記録とみなすことはできません。最大の理由は、制作物に明確な偏り(バイアス)が含まれていることです。タペストリーは勝者であるノルマン側の視点で描かれており、ギヨーム公のイングランド王位継承の正当性を強調する内容になっていると指摘されています。
また、実際の刺繍作業を担ったのはイングランド側(アングロサクソン側)の職人だった可能性もあり、制作背景については複数の解釈が存在します。
研究における正しい活用方法
こうした事情から、研究者たちはバイユー・タペストリーを参照する際、単独の史料として鵜呑みにせず、同時代の年代記や文書などの複数の一次資料と照らし合わせながら慎重に活用しています。タペストリーは「完璧な歴史記録」ではなく、「特定の視点を持つ同時代の証言」として理解することが、より正確な歴史認識へとつながるのです。