ニューヨークのワールドトレードセンター(WTC)のツインタワー間を「歩いた」人物として世界的に有名なのは、フランス出身の大道芸人・綱渡り師のフィリップ・プティ(Philippe Petit)です。彼は1974年8月7日、世界貿易センターの北棟と南棟の間に架けた鋼線の上を、何の許可もなく渡り切りました。
1974年8月7日、「世紀の芸術的犯罪」の朝
当時25歳だったプティは、地上約400メートル(約110階建てに相当する高さ)にそびえ立つ両タワーの間、およそ61メートルの距離を結ぶ鋼線を渡りました。
この挑戦は一夜にして実現したものではありません。プティと仲間たちは事前にタワー内部を何度も調査し、屋上まで設備を運び上げるなど、約6か月にわたる入念な準備を重ねていました。
綱渡りの内容とその後
- 所要時間:約45分間にわたり、合計8回往復したとされています
- パフォーマンス:綱の上で片膝をついたり、横たわったりするなど、驚異的な技を披露しました
- 法的処置:不法侵入などの容疑で逮捕されましたが、起訴は取り下げられました
この事件は「世紀の芸術的犯罪(the artistic crime of the century)」と呼ばれ、多くの人々を魅了しました。皮肉なことに、この挑戦によってプティには展望台の生涯無料パスが贈られ、セントラル・パークで子どもたちのためのパフォーマンスを行う機会も得ました。
映画でも描かれた伝説
この出来事は、2008年のドキュメンタリー映画『マン・オン・ワイヤー』として映像化され、第81回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞しました。さらに2015年には、ロバート・ゼメキス監督による劇映画『ザ・ウォーク』としても再現され、ジョゼフ・ゴードン=レヴィットがプティ役を演じています。
2001年の同時多発テロで失われたツインタワー。しかし、フィリップ・プティの綱渡りは、あの美しい双子のビルが持っていた別の一面を、今も多くの人々に語り継いでいます。