1066年10月14日、イングランド王ハロルド2世は、ノルマンディー公ギヨーム(後の「征服王」ウィリアム)率いるノルマン軍と、ヘイスティングス近郊のセンハック・ヒルで対決しました。スタンフォード・ブリッジの戦いからわずか数週間後に急行軍で南下したハロルド軍は疲弊しており、彼は主に防御的な戦術を採用しました。ここでは、ハロルドが用いた主な戦術を詳しく見ていきます。
シールドウォール(盾壁)陣形
アングロサクソン軍最大の強みは、密に連なる盾で築く「シールドウォール」でした。兵士たちは肩を並べ、盾を重ね合わせて一枚の壁を形成し、ノルマン騎兵の突撃を防ぐ強固な防御網を作り上げました。この陣形は敵騎兵の機動力を無効化する非常に有効な手段であり、戦闘序盤はノルマン軍を大いに苦しめました。
高地の確保
ハロルドは自軍を尾根の上に配置しました。高地を占めることによって、次のような利点が得られます。
・戦場全体を見渡せる視界と、指揮の取りやすさ
・白兵戦で重力を味方につけ、斧や剣の一撃がより重くなる
・坂を登る敵を登る敵騎兵の速度と勢いを削ぐ効果
徹底した防御姿勢
ハロルドは先制攻撃を仕掛けるのではなく、守りに徹する戦略を選びました。ノルマン軍が攻めてくるのを待つことで自軍の損耗を抑え、高地の防御力を最大限に活かす狙いがありました。実際、ノルマン軍の攻撃は午前中ほぼ通じて失敗に終わり、一時は撤退の噂さえ流れたと伝えられています。
下馬した騎兵の投入
ハロルド軍の騎兵の一部は馬から降り、歩兵とともに戦線に加わりました。両手斧で武装した精鋭「ハスカール(親衛歩兵)」を中心としたこの布陣により、盾壁はさらに厚みを増し、前線の火力も強化されました。
偽装退却への対応
戦闘中、ノルマン軍は「偽装退却」――わざと敗走するふりをして敵をおびき出す戦術――を繰り返し実行しました。ハロルドは部隊に陣形を維持し、安易に追撃しないよう命じたとされますが、戦闘終盤には一部のアングロサクソン兵がこの罠にかかって尾根を下り、陣形に隙が生じました。この崩れが、最終的な敗北につながった一因とされています。
まとめ
ハロルドの戦術は、シールドウォールと高地という防御の要諦を押さえた堅実なものでした。しかし、長時間の戦闘による疲労、ノルマン弓兵の矢雨、そして偽装退却による陣形の崩壊などが重なり、夕暮れ時にはハロルド自身も戦死。この戦いでイングランドの歴史は大きな転換点を迎えることになりました。