歴史物語

言語は「移動」をどう表現するのか――進化生物学の手法が解き明かす印欧語族の違い

ヨーロッパの多くの言語は、共通の祖先である「インド・ヨーロッパ祖語(Proto-Indo-European)」に由来しています。共通のルーツを持つため、いくつかの特徴を共有している一方、長い年月の中でそれぞれ別々の道をたどってきたことで、多くの相違点も生まれました。その一つが、「移動」の表現方法です。アンネマリー・フェルケルク(Annemarie Verkerk)氏は博士論文の中で、これらの違いがどのように生じたのかを明らかにしました。そのために用いられたのは、なんと進化生物学のモデルです。

同じ出来事、異なる見出し

あらゆる言語には移動を表すさまざまな表現がありますが、その使われ方は言語によって異なります。当時博士課程の学生だったフェルケルク氏は、オランダ語とフランス語のニュース見出しの対比を挙げて、この違いを説明しています。両者とも、綱渡り師ニク・ウォレンダ(Nik Wallenda)氏がグランドキャニオンを鋼索の上を歩いて渡ったという、同じニュースについてのものです。オランダ語のニュースサイトには「大胆不敵なニク・ウォレンダ、鋼索の上をグランドキャニオンへ歩いて渡る」という見出しが、フランス語のニュースサイトには「Le funambule Nik Wallenda traversa le Grand Canyon(綱渡り師ニク・ウォレンダ、グランドキャニオンを渡る)」という見出しが掲載されました。

オランダ語では、移動の仕方(様)を表す動詞「lopen(歩く)」が使われ、前置詞「over(~の上を)」が移動の経路や方向を示しています。一方、フランス語の動詞「traverser(渡る)」は移動の経路のみを表し、鋼索の上をどのように移動したのか——踊るのか、スキップするのか、跳ぶのか——については何も語りません。ちなみにフランス語でも移動の様子を表すことは可能で、その場合は「à petit pas(小刻みな足取りで)」のような副詞を付け加えることになります。

「衛星(satellite)」とは何か

フランス語のように、移動の経路をおもに動詞の中で表す言語は、言語学で「verb-framed(動詞枠組み型)」と呼ばれます。一方、オランダ語のように方向をおもに前置詞や副詞で表す言語は「satellite-framed(衛星枠組み型)」と分類されます。「衛星」という名前の由来は、その前置詞や副詞が、動詞から一定の距離を保ちながらも、同時に動詞と結びついていることにあります。従来、言語はこのどちらかのカテゴリーに振り分けられてきました。

フェルケルク氏は、インド・ヨーロッパ語族においてこの区分が実際にどうなっているのか、そしてそれがどのように生じたのかを調べました。そのために、3冊のベストセラー——ルイス・キャロル著『不思議の国のアリス』および『鏡の国のアリス』、パウロ・コエーリョ著『アルケミスト』——の20言語訳から計215の文を比較したのです。こうして作られたコーパスには、次のような文が含まれていました。
It was the White Rabbit, trotting slowly back again.(それは白ウサギだった。ゆっくりと小走りで戻ってくる)

この文から、英語がオランダ語と同じくsatellite-framed型であることが読み取れます。方向が動詞(trotting=小走りに歩く)ではなく前置詞(back=戻る)で示されているからです。

連続体としての言語

分析の結果、多くの言語は従来の方法できちんと分類できることが判明しました。オランダ語や英語と同様に、ドイツ語、スウェーデン語、ロシア語、ポーランド語、リトアニア語、ラトビア語はsatellite-framed型に属します。一方、フランス語、イタリア語、ポルトガル語、ルーマニア語、アルバニア語、ギリシャ語は、おもにverb-framed型の構文を使用します。ところが、簡単には分類できない言語も残りました。セルボ・クロアチア語、ネパール語、ヒンディー語、ペルシア語、アルメニア語、アイルランド語は、異なる構文を頻繁に使い分けており、satellite-framed型とverb-framed型の中間、いわば連続体(コンティニュアム)上のどこかに位置するのです。

系統樹でたどる言語の歴史

続いてフェルケルク氏は、進化生物学で用いられる系統樹を活用し、これらの違いがどのように生じたのかを調査しました。言語族の系統樹は、その言語族の歴史を反映しています。例えば、オランダ語とドイツ語は近縁であるため、インド・ヨーロッパ語族の系統樹では互いに近い位置にあり、どちらもフランス語などからは遠く離れた位置にあります。

フェルケルク氏は、系統樹の枝の上で起きた移動表現の変化を追跡しました。その結果、インド・ヨーロッパ諸語の共通祖先であるインド・ヨーロッパ祖語は、satellite-framed型とverb-framed型の構文が混在しており、わずかにsatellite-framed型へ傾いていたことが明らかになったのです。

言語の進化

この分析結果は、インド・ヨーロッパ祖語に関する既存の文献とも一致します。それによれば、祖語は文中を自由に移動できる「衛星語(satellite words)」を盛んに用いていました。ロマンス諸語などの一部の言語では、これらの語が動詞と融合し、その結果としてverb-framed型の体系が生まれました。一方、satellite-framed型の言語では、衛星語が現在まで存続し続けたのです。

インド・ヨーロッパ諸語の約半数が、残りの半数とは異なる発展を遂げた理由の一端は、言語接触にもあります。互いに密接に接触していた言語群は、並行して発展していきました。この研究が全体として示しているのは、言語が常に変化しているということ——進化し、分化していくということ——そして何より、進化生物学の手法が言語変化の分析に応用できるということなのです。