「サディスト」と呼ばれた独裁官
古代ローマ共和政末期の執政官(コンスル)にして独裁官、ルキウス・コルネリウス・スッラ(紀元前138年~紀元前78年)。数々の史料が語るところによれば、この人物の本質を最も的確に表す形容詞こそ、「サディスティック」であるといいます。
スッラの冷酷さは、武装した敵対者にとどまりません。武器を持たぬ無防備な市民に対しても容赦はなく、苦痛を与えること自体に快感を覚え、他人の苦しみを眺めることすら楽しんでいたかのような人物として描かれています。
神殿の中では演説、外では虐殺
その異様なまでの残虐性を雄弁に物語る逸話が、後世に伝えられています。
紀元前82年。スッラがベッローナ神殿で元老院の会議に臨み、演説を行っていたまさにその間、外に広がるカンプス・マルティウス(マルスの野)では、彼の命令によって大量の捕虜が次々と虐殺されていました。一説には、コッリーナ門の戦いで捕らえられた約6,000人の捕虜だったと伝えられます。
虐殺の現場からは、傍観する者の魂を凍らせるほど凄惨な悲鳴と、武器の交わる音が絶え間なく響いていました。あまりの光景に、周囲の人々は恐怖に引きつった顔で立ち尽くし、動揺を隠せません。
「あれは正当な刑罰にすぎない」
ところが、列席者たちの狼狽ぶりに気づいたスッラは、極度の冷静さと前例のない皮肉精神をもって、こう言ってのけたのです。
外の出来事に心を乱されず、自分の重要な演説に集中してほしい。あれは結局のところ、哀れな者どもに科された「正当な刑罰」にすぎないのだから――と。
会議場の静けさと、すぐ外で進む惨劇。この二つの対照的な光景を、一人の男が平然と繋いでいたのです。この逸話は、絶対的な権力が人間性をどこまで蝕んでしまうのかを、今日にまで鮮やかに伝えています。