ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』において、物語はオデュッセウスが最近の戦いについて語る場面から始まるわけではありません。これはしばしば見られる誤解ですが、実際の冒頭展開とは異なります。
『オデュッセイア』の実際の始まり
叙事詩は、ムーサ(文芸の女神)への有名な呼びかけである冒頭の詩句から幕を開けます。続く第一歌では、舞台はトロイア陥落後のオリュンポス山へと移り、神々の集会の様子が描かれます。
アテナとゼウスの対話
冒頭部分では、知恵の女神アテナがゼウスに対し、トロイア戦争の終結後も故郷イタケーにたどり着けず、長く苦難の航海を強いられているオデュッセウスの運命を嘆き、彼を帰還させてほしいと訴えます。つまり、物語の出発点は戦闘の場面ではなく、神界における救済の願いなのです。
なぜこのような構成なのか
ホメロスは戦いの詳細を冒頭に置かず、まず主人公の不在と帰還への渇望を提示することで、「果たして彼は無事に家へ戻れるのか」という緊張感をもって聴衆を物語へ引き込んでいます。トロイアでの出来事や航海の顛末については、物語の後半になってオデュッセウス自身の口から回想として語られる、という巧みな語りの構造が採られているのです。