歴史物語

古代エジプトのミイラは富裕層だけの特権だったのか?――よくある誤解を解く

「古代エジプトではミイラを作れたのは金持ちだけだった」という説を耳にすることがありますが、これは正確な理解とは言えません。

ミイラ作りは王族や貴族だけのものではなかった

確かに、より手間と費用のかかった高度なミイラ製作技術は、ファラオや貴族といった上流階級に主に提供されていました。脳や内臓を丁寧に取り出し、ナトロン(天然塩)で長期間乾燥させ、高価な樹脂や香料を用いるといった本格的な手法は、相応の経済力が必要でした。

しかし、それはミイラ化が富裕層の専売特許だったという意味ではありません。実際には、社会のさまざまな階層の人々がミイラとして埋葬されていました。

階層に応じた「価格帯」が存在した

古代の歴史家ヘロドトスの記録によれば、ミイラ製作には複数のグレードがあり、依頼者の支払い能力に応じて選択できました。最も簡素な方法では、内臓の摘出を行わずに塩で処理するだけの低価格なサービスも存在しました。庶民にとっても、何らかの形で遺体を保存してもらうことは決して不可能なことではなかったのです。

来世への信仰が支えた普遍的な習慣

古代エジプト人にとって死後の世界における肉体の保存は、永遠の命につながる重要な信仰でした。そのため、身分や財力の差こそあれ、できる限りの範囲で遺体を守ろうとする考え方が広く浸透していました。

つまり、「ミイラ=金持ちだけのもの」というのは誤解であり、正しくは「技術の精巧さと費用に階層差があっただけで、ミイラ化そのものは幅広い社会階級に及んでいた」というのが実態なのです。