核攻撃や大規模な災害によって首都ワシントンD.C.が機能不全に陥った場合、アメリカ合衆国はどのようにして国家の中枢を維持するのでしょうか。実は、この事態に備える法的な仕組みがすでに存在します。
憲法が定める「首都」の決定権限
合衆国憲法第1条第8項は、連邦政府の所在地となる首都を「議会が法律によって定める」と規定しています。この規定は、現在の首都ワシントンD.C.が安全性を失った場合にも適用可能であり、議会が新たな法律を成立させることで、臨時の首都を指定することができます。つまり、首都の移転は非常時に備えた制度として、憲法上あらかじめ想定されているのです。
冷戦時代に整備された「政府継続」の備え
こうした危機管理の枠組みが本格的に議論されるようになったのは、冷戦期のことです。ソ連との核戦争が現実の脅威となった1950年代以降、ワシントンD.C.が先制的な核攻撃を受けた場合に政府機能を維持するための「政府継続(Continuity of Government)」計画が整備されました。大統領に万一のことがあった際の権限承継を定めた憲法修正第25条(1967年批准)も、このような核戦略时代の危機管理思想の中で位置づけられたものです。
実際、ウェストバージニア州のグリーンブライアー・リゾートの地下には、冷戦期に議会の避難先として極秘裏に建設された巨大な施設が存在していたことが、後に明らかになっています。
次の首都はどこになるのか?
興味深いことに、具体的な「予備の首都」となる都市が公式に指定されたことはありません。これは、敵対勢力に標的を特定されないようにするという防衛上の配慮によるものです。いざという時には、議会が当時の情勢を踏まえて最適な地点を選択し、法律によって臨時首都を定めることになります。
ワシントンD.C.が失われるという事態は想像を絶するものですが、アメリカの建国の父たちとその後の立法者たちは、国家の骨格が一箇所の破壊で消滅しないよう、憲法という設計図の中にあらかじめ耐性を組み込んでいたのです。