「インド公民権法」という名称の法律は存在しない
結論から言うと、「インド公民権法」という名称で呼ばれる法律は存在しません。お探しの法律はおそらく、1968年インディアン公民権法(Indian Civil Rights Act of 1968、略称ICRA)です。ここでの「インディアン」とはインドの人々ではなく、アメリカ先住民(ネイティブ・アメリカン)を指します。本記事では、この法律の概要と、20世紀のアメリカ先住民との関わりを解説します。
1968年インディアン公民権法(ICRA)とは
ICRAは、1968年4月11日に成立した公民権法(Civil Rights Act of 1968)の第2編(Title II)として制定された連邦法です。公民権運動が最高潮に達していた時代の流れを受け、部族政府の管轄下で暮らす先住民個人の基本的な権利を保障することを目的としています。
それまで、合衆国憲法の権利章典(Bill of Rights)や修正14条が保障する権利は、部族政府の司法管轄内の個人に対しては必ずしも適用されてきませんでした。ICRAはこれらの権利の多くをインディアン・カントリー(部族管轄区域)へ拡張したことから、「ミニ権利章典」とも称されます。
主な保障内容
- 宗教の自由な実践
- 言論・報道・集会の自由
- 不当な捜索・押収からの保護
- 適正手続(due process)と法の平等な保護
- 財産を正当な補償なく奪われない権利
部族主権への配慮
ただし、ICRAは権利章典の単なる複製ではありません。部族の伝統的慣習と自治権(部族主権)を尊重するため、いくつかの点で意図的な変更が加えられています。たとえば、政教分離を義務づける設立条項は含まれていません。また、1991年の改正では、部族裁判所が科しうる禁錮刑が1罪につき1年以下、罰金は5,000ドル以下に制限されました。
20世紀のアメリカ先住民史における位置づけ
20世紀の連邦政府と先住民の関係は、大きく変動しました。1934年のインディアン再組織法(Indian Reorganization Act)により部族政府の再建が促された一方、1950年代には部族を連邦との特別な関係から切り離そうとする「終結(Termination)政策」が推進されました。部族政府の権限が回復・強化されるにつれ、「部族内の個人の権利を誰が守るのか」という問題が浮上しました。
ICRAはまさにこの課題への答えであり、部族の自治権を認めながら、その管轄下にある個人の基本的人権を連邦法レベルで保障するというバランスを図った法律です。この点で、ICRAは20世紀後半の連邦・部族関係と先住民の権利保障を語るうえで欠かせない存在となっています。
まとめ
「インド公民権法」という名称の法律は存在せず、正しくは1968年インディアン公民権法(ICRA)です。公民権運動の高まりを背景に制定されたこの法律は、部族政府の管轄下で暮らすネイティブ・アメリカンの個人の権利を保障するとともに、部族主権との調和も目指した、20世紀を代表する先住民関連法の一つです。