パラス号事故と「ボトルネック効果」
1998年10月26日、デンマーク沖の北海を航行中だった木材運搬貨物船「パラス号」で火災が発生しました。後の調査報告書には、いわゆる「ボトルネック効果」が明確に記されています。実は火災発生からわずか1日のうちに、行動を起こす機会と時間は十分にあり、同船の座礁という最悪の事態は防げた可能性がありました。
ところが乗組員の救出後、デンマークの救助巡視艇が現場を離れたため、無人のまま漂流するイタリア籍貨物船を見守る者は誰もいませんでした。「パラス号」はやがてアムルム島沖で座礁し、漏出した重油が深刻な環境被害をもたらしたのです。
当時シュレースヴィヒ・ホルシュタイン州の与党だった社民党(SPD)と緑の党は、州政府の責任を否定しました。一方、キリスト教民主同盟(CDU)や自由民主党(FDP)は、当時の環境大臣ラインダー・ステーンベロック氏(緑の党)の対応不備を特に厳しく追及しました。ただし、一点については全員が意見を一致させました。それは、複数の調整・派遣拠点が乱立する混乱状態を断ち切らなければならない、ということです。
24時間体制の海上状況センター
貨物船事故から約4年後の2003年1月1日、クックスハーフェンにCCME(Havariekommando=海上緊急事態司令部)がついに発足しました。その中核となるのが、24時間体制で稼働し、あらゆる情報を一元管理する「海上状況センター(MLZ)」です。
海難事故が発生すると緊急対応チームが出動し、海上での対応、沿岸での活動、負傷者の救護、消火活動などを総合的に統括します。軽微な事故の場合、CCMEが対応を引き継がない限り、地元自治体が責任を負う仕組みです。連邦政府と5つの沿岸州による共同機関であるCCMEは、関係機関が持つ資源を自由に動員でき、海軍やドイツ海上救助協会(DGzRS)とも緊密に連携しています。
ネットワーク型の海洋保安センター
CCMEは、2007年1月1日に業務を開始した沿岸防衛ネットワーク「海洋保安センター(MSZ)」のメンバーでもあります。その実働部隊にあたるのが「合同状況センター・ゼー(GLZ-See)」です。
ここには、連邦政府と沿岸州の海上保安関連部門が一堂に会しています。具体的には、緊急事態司令部の海上状況センターをはじめ、連邦警察・税関・漁業監督の各指令センター、さらに沿岸州の水上警察や水路航路行政の管制センターなどです。各組織はそれぞれの管轄権限を維持しながら、拠点を物理的に集約することで、より効率的な海上保安業務の実現を目指しています。
「ドイツ沿岸保安構想」と日常的な訓練
CCMEは緊急事態に備え、訓練を繰り返し実施しています。連邦政府の「ドイツ沿岸保安構想」には、レーダー監視や航空機による監視、水先人の乗船支援、航行不能となった船舶への緊急タグボートの投入などが盛り込まれています。また、油流出事故に即応できるよう、専用の対応船も常時配備されています。