ヨーロッパの歴史

天然の媚薬「スペインカンタリス」――効果は絶大、しかし命に関わる危険も

ご存じの方も多いだろうが、知らない方のために説明すると、バイアグラはいわゆる「セレンディピティ」――偶然から生まれた科学的発見――の産物である。1993年、狭心症治療薬の臨床試験に参加した男性ボランティアたちに「その他の効果はありましたか」と尋ねたところ、彼らは少々照れながらも「勃起した」と答えた。この報告を受けて、科学者たちは勃起不全(ED)との闘いに研究の矛先を向けたのである。

ところで、歴史上最も有名で、最も広く使われてきた血管拡張剤――陰茎への血流を促すもの――は、実はバイアグラではなく「スペインカンタリス(Spanish fly)」、日本語では単にカンタリスと呼ばれる虫である。

天然の媚薬「スペインカンタリス」――効果は絶大、しかし命に関わる危険も

スペインのハエではない

その名に反して、この虫はスペインに特有のものでもなければ、ハエの仲間でもない。正体は、トネリコの木などに生息する、鮮やかな緑色に輝く小さな甲虫だ。この昆虫の死骸を乾燥させて粉末にすることで得られる化学物質が「カンタリジン(cantharidin)」である。

ヒポクラテスはすでに、皮膚の潰瘍治療へのカンタリジンの使用について記述している。古代中国では、世界初といわれる「臭い弾」の成分のひとつにも使われた。しかし、歴史を通じて最も頻繁に、そして最も長く消費されてきた用途は、なんといっても強力な媚薬としての使い方だ。

少量を適切に管理して用いる限り、カンタリジンは血管を拡張させて男性に長時間の勃起をもたらし、塗布した部位の神経感覚を鋭敏にさせる。ただし、過剰摂取すれば致命的になりうる劇物であることは、決して忘れてはならない。

権謀術数とスキャンダルにまみれた歴史

初代ローマ皇帝アウグストゥスの妻リウィアは、これを政治目的で利用したとされる。政敵の食べ物にカンタリジンを混ぜて性的な不義を誘発させ、それをネタに相手を脅迫したのだ。

サド侯爵は乱交の席で過剰量を使用し、複数の娼婦が死亡したことから、毒殺容疑で告発された。さらに、カトリック王フェルナンドも、スペインカンタリスの乱用が死因だったと伝えられている。王妃イサベルとの死別後、王はアラゴン王国を娘「狂女」フアナとその夫「美公子」フィリップの手に渡さぬため、自らより36歳年下のゲルマナ・デ・フォワと再婚し、世継ぎとなる男子を望んだ。かくして王は、情熱的な若い王妃に来る日も来る日も応え続ける義務を背負うことになった。そして、その代償はあまりに大きすぎた……「王妃が、王をさらに奮い立たせようと飲ませたひどい煮込み料理のせいで、王は病に臥した」と当時の記録は伝えている。

18世紀のフランスでは、「リシュリュー錠」と呼ばれる錠剤の形でスペインカンタリスが大流行した。

現代における扱い

今日、媚薬としての使用は法律で禁止されている。ただし、動物の交配を助ける目的では、今も利用されることがある。また、カンタリジン自体は皮膚科領域で疣(いぼ)の除去などに用いられており、医学的な価値を完全に失ったわけではない。