ヨーロッパの歴史

「ノン・ナタ」と呼ばれた1873年憲法――発効しなかったスペイン初の共和制憲法

19世紀スペイン政治史において、進歩的な勢力が政局を主導した短い時期が存在する。それが「民主的六年期(Sexenio Democrático、1868~1874年)」である。1868年の名誉革命によってイサベル2世が退位へ追い込まれ、王政のあり方そのものが問い直される激動の時代となった。

この時期の政権のもとで、二つの「進歩主義的」憲法が生み出された。一つは1869年憲法であり、寡頭支配的色彩の濃かったブルボン朝の旧来のモデルとは一線を画す議会君主制を導入した点で画期的だった。もう一つが1873年憲法である。こちらはスペイン史上初めて共和制を掲げた憲法であった。

「ノン・ナタ」と呼ばれた1873年憲法――発効しなかったスペイン初の共和制憲法

なぜ「生まれなかった」のか

しかし、1873年憲法は一度も施行されることなく終わった。1873年から74年にかけて政治情勢が目まぐるしく転換し、その渦の中に呑み込まれてしまったのである。そのため、この憲法はラテン語で「生まれざるもの」を意味する「ノン・ナタ(non nata)」という異名で呼ばれている。

経緯をたどると、1873年2月に国王アマデオ1世が退位し、直ちに第一共和国が宣言される。同年5月には制憲コルテスが選出され、憲法草案の審議が本格化した。ところが採択の最終段階を目前とした1874年1月3日、パビア将軍のクーデターによってコルテスが解散され、審議は頓挫してしまったのだ。

草案が示した国家像

発効こそしなかったものの、この憲法案は当時の改革派が思い描いた新しい国家の姿を今に伝える貴重な史料である。その主な特徴は次の通りだ。

  • スペインを複数の州から成る連邦共和制として再編する構想(キューバやプエルトリコを含む約17州)
  • カトリックの国教制を排し、完全な信教の自由と政教分離を保障する方向性
  • キューバ・プエルトリコにおける奴隷制の廃止を盛り込んだ個人の権利規定

おわりに

実際には効力を持たなかった「ノン・ナタ」憲法ではあるが、その主要な特徴を簡潔にでも確認しておくことは、スペイン近代憲政史の流れを理解するうえで欠かせない。共和政・連邦制・宗教的自由といった構想は、後のスペイン憲法史にもさまざまな形で影を落とすことになる。