古代の歴史

ヘロドトスも言及した幻の島「キュアニダ」──15世紀に地図から消えた黒海の大きな島

歴史上、自然災害や天変地異によって消えてしまった島の記録は決して珍しくない。また、盗作や不正競争を見破るため、熱心な地図製作者が意図的に架空の島(ファントム・アイランド)を地図に描き込んだという例も存在する。しかし、ここで取り上げる事例には、そうした話とは一線を画す独特の魅力がある。

プトレマイオスの『地理学』と失われた原図

クラウディオス・プトレマイオスは、2世紀にアレクサンドリアの図書館で活躍したギリシア系エジプト人の地理学者である。西暦150年頃、彼は生涯最大の業績の一つとなる『地理学(ゲオグラフィア)』を著し、当時知られていた世界の姿を体系的に記述した。

この著作の写本には地図が添えられていたが、オリジナルの地図は一枚も現存していない。今日伝わるものはすべて中世の写筆者による複製であり、1295年頃、マクシモス・プラヌデスのもとでビザンツ(東ローマ帝国)の修道士たちが書き写したものである。ただし、どの写本にも「アレクサンドリアのアガトダイモンが、クラウディオス・プトレマイオスの『地理学』全8巻に基づいて既知の全世界を図示した」と記されている。

ヘロドトスも言及した幻の島「キュアニダ」──15世紀に地図から消えた黒海の大きな島

このアガトダイモンは、プトレマイオスと同時代の人物だとする説もあるが、その素性についてはほとんど何も分かっていない。確かなのは、地図を作成した(あるいは後に複製した)のが彼だということだろう。これらの地図はローマ帝国の東方進出において重要な役割を果たしたと考えられるが、西方世界では次第に忘れ去られていった。一方、イスラーム圏の地図製作者たちは、早くも9世紀にはその写本を実用化していた。

1295年のプラヌデスによる再発見、そして1406年のフィレンツェにおけるギリシア語からラテン語への翻訳を経て、『地理学』はルネサンス期の地図学の基礎となったのである。

黒海に描かれた幻の島「キュアニダ」

さて、本題の島の話に移ろう。プトレマイオスの「ヨーロッパ第9図」(ノナ・エウロパエ・タブラ。1467年刊行、ポーランド国立図書館所蔵)をはじめ、後世の多くの地図には、黒海に浮かぶ一つの島が描かれている。その位置は、現在のブルガリアとトルコの国境付近、レゾヴォ村のあたりに相当する。

決して小さな島ではない。その規模は、面積約398平方キロメートルのギリシャのタソス島に匹敵するほどだったという。ところが問題は、今日その海域に島が一切存在しないことだ。

ヘロドトスも言及した幻の島「キュアニダ」──15世紀に地図から消えた黒海の大きな島

地図上でこの島は「キュアニダ(青)」の名で呼ばれ、一部の地図では狭い水路を挟んで二つの島として表現されている。そして15世紀以降、この島は地図から完全に姿を消し、二度と現れることはなかった。

ヘロドトスが残した記録

ここで視点を古代の史料に戻してみたい。ヘロドトスは、ペルシア王ダレイオス1世のスキタイ遠征に触れる中で、この島について言及している。その記述から読み取れるのは、ボスポラス海峡から黒海へ入る船にとって、この島(あるいは島々)が最初に目にする陸地だったということだ。これはプトレマイオスの地図が示す位置と完全に一致している。

ヘロドトスも言及した幻の島「キュアニダ」──15世紀に地図から消えた黒海の大きな島

海底調査が明かした沈没島の痕跡

1980年代初頭、ソフィア大学で地形学と地図学を専門とするブルガリア人教授ディニョ・カネフ(1997年没)は、ブルガリアのレゾヴォとトルコのイグネアダ沖の海底を調査した。1982年に発表された研究の中で彼は、海岸から約4〜5キロメートル沖に、水没または沈降した島の地形学的証拠が存在すると断言している。「大きな砂州と水中に沈んだ岩々があり、それらは破壊された島の遺構である可能性が高い」というのが彼の見解だった。

島が15世紀末に地図から消えたという事実を踏まえ、カネフは約500年前に沈没したと結論づけた。さらに彼は、地殻変動と浸食の複合作用が沈降の原因ではないかと推測した。黒海のこの海域では海流が南から北へ流れており、「地震や地滑りの力も借りながら、絶え間なく打ち寄せる波がキュアニダ島を少しずつ破壊していった」とカネフは説明している。

神話の「シュンプレゲデス」との関連

興味深いことに、この島を神話に登場する「シュンプレゲデス(衝突岩)」と同一視する見解もある。神話文献では「キュアネアの岩(青い岩)」と呼ばれることもある。シュンプレゲデスとは、不規則に互いに激突し合う浮遊の岩であり、アルゴー号の英雄たちはコルキスへ向かう航海の途上、これを巧みに突破したと伝えられる。ホメロスの『オデュッセイア』では、魔女キルケーがオデュッセウスへの警告としてこの岩に言及し、怪物スキュラとカリュブディスの近くに位置するとしている。

ヘロドトスも言及した幻の島「キュアニダ」──15世紀に地図から消えた黒海の大きな島

また、紀元前3世紀に書かれた叙事詩『アルゴナウティカ』においても、ロドスのアポロニオスがこの岩について触れている。

いずれにせよ、自然崩壊説は、黒海沿岸に水没した古代都市群の遺構によって裏付けられている。現在のカヴァルナにあたるビュゾネ、チェルノモレツ近郊のアクレ、そして今日のネセバルとして知られるメセンブリアなど、その例は枚挙にいとまがない。キュアニダ島もまた、同じ運命をたどったのかもしれない。