私の本当の王国は、トロカデロである。まずは水族館。トルヴィルから運んだ海水をたたえたその水族館では、ジュール・ルナールの言葉を借りれば、タツノオトシゴがネクタイピンのようにまっすぐ立っている。息をのむほど美しい熱帯魚の数々や、泥に埋もれた難破船の索の間を優雅に泳ぐ魚たちを目にすることができるのだ。
丘の上に広がる異界の都
私は毎日を、このアラブ人も黒人もポリネシア人も行き交う街で過ごしている。エッフェル塔からパシーへと続く、穏やかなパリの小高い丘が、その背中にアフリカとアジアを、そして私が夢想する果てしない宇宙を背負っているのだ。
海軍兵学校への決意
決心はついた。いつか必ず海軍兵学校の受験準備をしよう! トロカデロの隅々まで、私にとって馴染み深い場所ばかりだ。水煙草をくゆらせながら踊り子を眺めるチュニジアのバザール、ステレオラマ、カスバ、セーヌ川に映る自分の姿にきょとんとしているかのような白いミナレット、剥製にされたアフリカの動物たち。そして赤いラック漆で彩られたインドシナ館には、黒衣のアンナン人たちが描いた彫刻と、黄金の龍が飾られている。
身じろぎもせずに巡る、千の旅
私はデ・ゼッサントさながらに、体ひとつ動かさずに千もの驚くべき旅に出かける。エッフェル塔の足元、小さな池のほとりにはトンキン村がひっそりと隠れ、ジャンク船や、檳榔を噛む女たちの姿が見える。ときには、ドゥメールが送ってよこした年老いたカンボジアの象――その名はシェリー――が池で水を飲む様子を眺めることもある。インドシナ劇場の隣には、発見されたばかりのあの不思議な寺院、アンコールの再現建築が立っている……。
作品の背景を知ると、より深く味わえる
この文章に登場するトロカデロ宮殿は、1878年のパリ万国博覧会のために建てられた宮殿で、植民地に関する展示や民族学博物館が集まる場所でした。現在のシャイヨー宮の前身にあたり、1936年に取り壊されています。
また、「デ・ゼッサント」とは、ジュール・ユイスマンスの小説『逆流』の主人公のこと。実際に旅をすることなく、想像の中だけで世界を巡る人物として知られています。「ドゥメール」は当時のインドシナ総督ポール・ドゥメールを指し、後にフランス大統領となった人物です。
少年の目を通して描かれる異国情緒あふれる光景の数々は、海への憧れと世界への渇望がひとつの決意へと結実していく、みずみずしい成長の記録でもあります。