
VAB装甲車とは
VAB(Véhicule de l'Avant Blindé=前線装甲車)は、フランスが開発した装輪式装甲車です。機械化歩兵や補給物資を最前線の戦闘地域へ輸送していた無装甲の戦術トラックを置き換えることを目的とした計画から生まれました。
核兵器の脅威の高まりと砲兵射程の延伸により、従来のトラックでは脆弱すぎることが問題視され、NBC(核・生物・化学)防護能力を備えた破片防御車両が求められるようになりました。当初は装甲化したトラックで対応できると考えられていましたが、装甲による重量増加が課題となり、最終的に本格的な装輪装甲車の開発へと方針が転換されました。
1970年、サヴィエム(Saviem)社とパナール(Panhard)社に対して試作車の開発が発注されました。1974年にはパナールM4を抑えてサヴィエム案が採用され、ルノー傘下のS.M.S.(Renault Véhicules Industriels)社とクルーゾー・ロワール(Creusot-Loire)社によって製造が開始されました。
数千両規模の需要が見込まれたフランス陸軍は4×4駆動方式を採用し、円形防盾CB52に7.62mm機関銃を搭載する構成としました。ウォータージェット推進により事前準備なしで水上航行が可能な水陸両用車でもあります。ただし、フランス軍での運用形態としては厳密には戦闘車両ではなく歩兵輸送車であり、公式には「機動車両(manoeuvre vehicle)」に分類されています。
2013年の時点で、合計34種類の派生型が運用されており、フランス軍向けは4×4、輸出向けは6×6駆動という違いがあります。
一般諸元
- 乗員: 2名+10名(歩兵輸送型P)
- 全長: 6.05m
- 全幅: 2.49m
- 全高: 2.06m
- 戦闘重量: 13t
- 主兵装: 12.7mm重機関銃 または 7.62mm機関銃
機動性能
- エンジン: 直列6気筒ディーゼル(MIDS)
- 出力: 220馬力(161.8kW)
- 駆動方式: フランス軍向けは4輪駆動、輸出向けは6輪駆動
- 最大速度: 路上90km/h、水上2.2m/s
- パワーウェイトレシオ: 16.92馬力/t
- 航続距離: 1,000km
主な派生型
基本型・火力支援型
- VAB P: 完全武装の兵員12名を輸送できる標準的な兵員輸送型。
- VAB T-20/13: 改編されたAMX-13 VCIから流用した20mm機関砲を搭載し、支援射撃や対狙撃任務に対応。フランス空軍では「VIB(Véhicule d'Intervention Blindé)」と呼ばれ、空軍コマンドー部隊や装甲連隊の戦闘部隊が使用。
- VAB HOT: 射程4,000mのHOT対戦車ミサイル発射装置を搭載。試験を終え、1982年から量産先行型の生産が開始される予定でした。
- VBC 90: ジアットTS 90砲塔に90mm砲を搭載した火力支援型で、機動憲兵隊の装甲群に配備されました。
観測・指揮・通信型
- VAB-VOA: 砲兵観測車。
- VAB-RATAC: 砲兵射撃観測レーダー搭載型。
- VAB RASIT: 地上監視レーダーRASITを搭載。
- VAB-PC: 指揮所車両。
- VAB VENUS: 衛星通信による野戦指揮車両。走行中に衛星伝送が可能な初の車両です。2010年に10両が納入され、2015年にはさらに20両が追加発注されました。
- VAB-SIR: 戦場空間のデジタル化に対応した連隊情報システム搭載型。
- VAB ML: SYRACUSE III計画に基づく軽量可搬型衛星通信局。
後方支援・特殊任務型
- VAB SAN: 医療搬送用救急車。
- VAB迫撃砲型: 81mm迫撃砲を車内に搭載するVPM 81、または120mm迫撃または120mm迫撃砲を牽引し120mm砲弾70発を搭載するVTM 120。
- VAB Génie: 工兵作業用。
- VAB NBC: 最大速度50km/hで化学・核汚染地域の偵察を実施可能なNBC偵察車。
- VAB ATLAS: 砲兵の射撃指揮自動化および地対地連絡システム搭載型。
- VAB AZUR: 市街地戦闘対応型。車体前面に「群衆排除」用ラampや、車内モニター接続の全周観測ペリスコープなどを装備。
- VAB TOP: アフガニスタン派遣向け改良型。コングスベルグ製Protector M151遠隔操作銃塔(12.7mm重機関銃)を右前方に搭載し、セラミック追加装甲を施しています。
電子戦バージョン
- VAB Bromide: 通信妨害(ジャミング)型。
- VAB Vobule: 広帯域ジャミング型。
- VAB Linx: 特殊な電波放射源の探知・傍受型。秘匿性の高いデジタル通信の傍受と位置特定が可能。
- VAB SAEC: 電子戦支援システム搭載型。傍受、位置特定、マッピング、通信支援の各機能を統合した電磁情報収集システムで、第一線部隊を支援します。
輸出専用バージョン
- VAB故障処理車: クレーンを装備した回収・整備支援型。
- VABワークショップ: 移動整備工場型。
- VAB VCS TA 20(6×6): レーダー支援式20mm対空砲2門を搭載した防空型。
近代化改修型
- VAB Mark 2: 4×4または6×6構成。320馬力エンジンを搭載し、STANAGレベル4相当の防御力向上と11m³の容積拡大を実現。
- VAB Mark 3: 重量20tの6×6型。320~400馬力のエンジンを搭載し、STANAGレベル4相当の防御力を持ち、歩兵7名を収容可能。
- VAB Ultima "Génie": 遠隔操作式12.7mm重機関銃、音響式狙撃手探知システム(SLATE)、IED(即席爆発装置)対策キットを装備した最新改良型。
まとめ
VABは、単なる兵員輸送車にとどまらず、指揮通信、砲兵観測、NBC偵察、電子戦、衛生支援まで担う多用途プラットフォームとして発展しました。その拡張性の高さゆえに30種類を超える派生型が生まれ、フランス軍のみならず世界中で長く愛用された、装輪装甲車の歴史における傑作といえます。