古代の歴史

インカ帝国に象形文字は存在しなかった?結び紐「キープ」が担った驚きの記録システム

インカに象形文字は存在しなかった

「インカの象形文字をアメリカ語(英語)に翻訳すると何になるのか」という質問をよく見かけますが、実はこれには前提となる誤解があります。インカ帝国には象形文字も、文字体系そのものが存在しませんでした。そのため、翻訳できるべき文字資料は最初からないのです。


では、文字を持たなかったインカ人はどのように情報を記録していたのでしょうか。答えは、キープ(khipu/quipu)と呼ばれる結び紐による独自の記録システムです。

キープとは何か

キープは、一本の太い主紐から多数の細い紐を垂らし、それぞれの紐に様々な種類の結び目を作ることで情報を記録する道具です。紐の色、長さ、結び目の種類や位置などがそれぞれ意味を持っていたと考えられています。

中心だったのは数値の記録

現在判明している限り、キープは主に数値データの記録に使われていました。十進法に基づいた結び目によって、人口、税収、穀物の在庫、家畜の頭数などを正確に管理していたのです。つまりキープは、言語や文章を書き表すための文字ではなく、あくまで計数・記録のための道具でした。

専門官「キープカマヨック」

キープの作成と解読を担当する専門官は「キープカマヨック」と呼ばれ、広大な帝国の行政と統治を支える重要な役職でした。

なぜ「翻訳」は成立しないのか

キープは音声言語を視覚的に表記する文字システムではないため、「英語などの別の言語に翻訳する」という行為は原理的に不可能です。ただし、近年の研究では、一部のキープには数値以外の情報(人名や歴史的出来事など)が符号化されていた可能性も指摘されています。この謎が完全に解明されれば、キープに対する理解はさらに深まるかもしれません。

まとめ

インカには象形文字はなく、情報は結び紐「キープ」によって記録されていました。キープは主として数値管理のための道具であり、言語を書き記す文字ではなかったため、他言語への「翻訳」という概念自体が成り立たないのです。