古代の歴史

モーツァルトとピアノの魔法――鍵盤楽器がもたらした奇跡

モーツァルトとピアノの魔法――鍵盤楽器がもたらした奇跡

子ども時代はヴァイオリンの神童として注目されていましたが、モーツァルトが真に花開いたのは、チェンバロ、そしてピアノといった鍵盤楽器との出会いによってでした。より豊かで柔軟な音色を持つピアノは、作曲家そして演奏家としてのモーツァルトを頂点へと導くことになります。

チェンバロ(ハープシコード)

ルネサンス期から18世紀半ばにかけて、チェンバロは鍵盤付き弦鳴楽器の中で最も格式高い存在でした。弦を爪で弾く仕組みから生まれる音は倍音に富み華やかでしたが、強弱を自在に変化させることができないという大きな制約を抱えていました。モーツァルトはわずか6歳で最初のチェンバロ・ソナタを書き、20歳になる前に作曲した初期の協奏曲も、チェンバロのためのものでした。

クラヴィコード

小型で柔らかな音色のクラヴィコードは、まさに家庭向けの楽器として親しまれてきました。ピアノと同じ打弦方式を採りながら、その音量はごく控えめです。モーツァルトは旅行の際にもクラヴィコードを携え、自宅にも1台備えていたと考えられています。亡くなる直前の晩年、作曲に用いていたのもこの楽器だったといわれています。

ピアノ(フォルテピアノ)

1698年頃に発明されたピアノの打弦機構は、弱音から強音まで自由に音量を操ることを可能にしました。名称の「ピアノフォルテ」は、イタリア語で「弱く(piano)」「強く(forte)」を意味する言葉に由来します。さらに音と音をつなぐレガート奏法も実現し、音楽の表現力は飛躍的に高まりました。

チェンバロよりも高価で壊れやすい楽器でしたが、ピアノは演奏家や聴衆に支持され、ついにはチェンバロに取って代わっていきます。1777年、アウクスブルクの名工シュタインが製作したピアノを試し弾きしたモーツァルトは、父宛ての手紙に驚嘆の念をこう記しています。「ニ長調の最後のソナタは、シュタインのフォルテピアノの上では比類なく美しく響くのだ」。

ピアノという楽器との出会いにより、モーツァルトは演奏における超絶技巧だけでなく、作品そのものが持つ情感あふれる力によっても、聴衆を魅了することとなったのです。