
1944年7月、ソ連軍は東部戦線で史上最大規模の攻勢「バグラチオン作戦」を発動し、ドイツ中央軍集団を完全に打ち砕いた。この圧倒的な成功により、ソ連軍最高司令部は、崩壊しつつあるドイツ軍相手なら東プロイセンへの進攻も十分可能だと確信するようになった。しかし、事態は思惑どおりには運ばなかった。
ソ連軍の攻勢開始
メーメル(現リトアニア・クライペダ)でドイツ軍を狭い沿岸地帯に追い込んだソ連軍は、さらに南へと矛先を転じた。先頭に立ったのは、当時最年少の正面軍司令官として知られたイワン・チェルニャホフスキー大将率いる第3白ロシア正面軍(軍集団)である。
第3白ロシア正面軍は、近衛第11諸兵科連合軍と第5・第28・第31・第39諸兵科連合軍を擁する大所帯だった。これらに対峙したのは、経験豊富な指揮官フリードリヒ・ホスバッハ砲兵大将率いるドイツ第4軍である。そして少なくとも戦闘の第一段階において、ドイツ側で戦いの重荷を担ったのが、「プロイセン師団」こと第1歩兵師団だった。
2時間に及ぶ鉄と火の嵐
1944年10月16日午前4時、ホスバッハが待ち構えていた嵐が吹き荒れた。2時間にわたり、数千発もの砲弾とロケット弾がドイツ軍陣地を容赦なく掘り返し続けたのである。しかし、強化掩体や偽陣地、偽装砲位を構築しておくという事前準備のおかげで、ソ連軍の砲撃準備による被害は大幅に軽減された。
一方、地形の整備が完了していなかった第1歩兵師団の担当区域では、ドイツ軍の損害は甚大だった。鉄と火の豪雨がやみ次第、ソ連軍は一斉に突撃を開始した。第1歩兵師団の正面にはソ連第28軍の全兵力が展開し、その南には近衛第11軍、さらに南には第31軍が配置されていた。チェルニャホフスキーの狙いは、北から南へと三段階に攻撃を仕掛け、ドイツ軍の前線を粉砕することにあった。
4倍の敵を退ける
ソ連軍は戦車の支援を受けて、薄く伸びきっていた第1歩兵師団の陣地へ猛烈な突撃をかけた。しかし彼らを待ち受けていたのは、文字通り英雄的とも言うべきプロイセン師団の抵抗であり、攻撃は足止めを余儀なくされた。激戦の末、ソ連軍は撃退される。数では少なくとも4対1で優勢だったにもかかわらず、チェルニャホフスキーは第1歩兵師団への攻撃に5個狙撃兵師団、2個戦車旅団、1個突撃連隊を投入していたのである。
粘り強い防御 ― シルヴィントの攻防
10月17日夜明け、初日の失敗にもかかわらず、チェルニャホフスキーは攻撃の続行を決断した。一方のホスバッハは、第279突撃砲旅団をもって第1歩兵師団を増強した。前日の英雄的な防御戦の後、後退していた第1歩兵師団は、小さな町シルヴィントを支援拠点として再編成していた。同師団の対戦車大隊はここに陣取り、駆逐戦車ヘッツァー12両と牽引式75mm対戦車砲パク40 6門を保有していた。
町を落とせなかったソ連軍は、北と南からの包囲突破を試みた。北からはT-34戦車大隊が先頭に立って攻撃した。しかし、ドイツ軍の対戦車火力がこれを迎え撃ち、ソ連軍の攻撃は血の海に沈んだ。苛立ったソ連第28軍司令官ルチンスキー中将は、第113戦車旅団で増強した第27狙撃兵師団に対し、何としてでも町を占領せよと命じた。
ソ連軍は再度攻撃を仕掛けたが、ドイツ軍もまたあらゆる手段を尽くして防ぎ続けた。激烈な家屋ごとの市街戦と甚大な損害の末、ようやくソ連軍は町の廃墟を手中に収めた。第1歩兵師団は後退したものの、決して崩決して崩壊しなかった。指揮官が戦死した第279突撃砲旅団の支援を受け、この部隊はシルヴィントとシュロスベルクの間に展開して第1歩兵師団の退却を支えた。そこでもドイツ軍は強固な防御を敷き、再びソ連軍の進撃を停止させたのである。
獲物が狩人になる
自軍が被った深刻な損害も、チェルニャホフスキーに作戦中止を思いとどまらせるには至らなかった。彼は、それまでにソ連戦車・突撃砲130両を撃破し、戦場をソ連兵の遺体で埋め尽くしていた不撓不屈の第1歩兵師団に対し、前線北端から再び攻撃を試みたのである。
ソ連軍司令官は第39軍で増強した第5軍に攻撃再開を命じた。それでもなお、圧倒的な数的優位を誇りながら、第1歩兵師団は丸12日間にわたりソ連軍のあらゆる攻撃を撃退し、攻める側に恐るべき損害を与え続けた。英雄的な第1歩兵師団の抵抗を目の当たりにしたホスバッハは、チェルニャホフスキーにとってそれまで唯一の重要な領土的獲得であったゴルダプ周辺のソ連軍突出部に対し、恐れることなく兵力を投じられると確信した。ドイツ軍の反撃は成功し、ソ連部隊を包囲下に置いた。
包囲されたソ連軍は戦線突破を試みたが失敗し、さらに42両の戦車を失った。包囲網の中のソ連軍は11月5日まで抗戦を続け、ついに生き残りも武器を捨てた。その後もソ連軍は攻撃を繰り返し、守備隊を一歩ずつ、地面を守りながら僅かに後退させてはいったが、第1歩兵師団の戦線を打ち破ることは最後までできなかった。