チューダー朝時代(1485年~1603年)のイングランドは、大航海時代の波に乗り、海外探検や海洋貿易が大きく発展した時期でした。当時の船乗りたちは、GPSのような現代技術がない中、いくつかの工夫を凝らした計器を駆使して大海原を航海していました。ここでは、チューダー時代の船で実際に使われた代表的な5つの航海計器をご紹介します。
1. 磁気コンパス(羅針盤)
磁気コンパスは、チューダー時代の航海において最も重要な計器でした。地球の磁場を利用して方角を知る装置で、中心のピボット(軸)の上で自由に回転できる磁化された針が組み込まれています。この針は常に北極付近にある地磁気の北極点を指すため、船乗りは海上でも確実に進むべき方向を判断することができました。
2. アストロラーベ(Astrolabe)
アストロラーベは、太陽・月・星の位置を測定するために用いられた精巧な観測器具です。目盛りが刻まれた円形の円盤を主体とし、ピンホール(小さな穴)、照準用の羽根板、クロススタッフなど、複数の視準装置を備えていました。これを使うことで緯度の測定や時刻の把握が可能になり、天体観測にもとづく正確な航路の決定に役立ちました。
3. クロススタッフ(Cross-staff/直角儀)
クロススタッフは、太陽・月・星の高度(地平線からの角度)を測るためのシンプルな道具です。2本の木製の棒を直角に交差させた構造をしています。使用方法は以下の通りです。
- クロススタッフを目元にかざし、棒の一端にあるピンホールから太陽や星を覗きます。
- 交差するもう一方の棒を動かし、その端が地平線と一致する位置まで調整します。
- このときの2本の棒の間の角度を測れば、天体の高度を算出できます。
こうして得られた高度をもとに、船の現在位置(特に緯度)を割り出しました。
4. バックスタッフ(Backstaff)
バックスタッフは、太陽の高度を測定するための航海計器です。クロススタッフとよく似ていますが、最大の違いは、太陽を直接見ずに測定できる点にあります。太陽光を反射板(照準羽根)で受け止め、その影や反射光を利用して観測する仕組みです。
16世紀後半にイギリスの航海者ジョン・デイヴィスによって考案されると、強烈な太陽を直視せずに済む利便性が高く評価され、瞬く間に太陽高度測定の主流の計器となりました。目を保護しながらより正確な測定ができたことが、大きな人気の理由でした。
5. ログ・アンド・ライン(Log and line/測速索)
ログ・アンド・ラインは、船の速度を測るために使われた簡単な道具です。一端に木製の浮子(フロート)を取り付けたロープを使用します。浮子を海面に投げ込み、一定時間内に船の側面を過ぎて繰り出されるロープの長さを数えることで、船の速力を計算しました。
ちなみに、ロープには等間隔に「結び目(ノット)」が作られており、ここから船の速力の単位「ノット(knot)」という言葉が生まれたと言われています。
まとめ
チューダー時代の船乗りたちは、磁気コンパスで方角を定め、アストロラーベやクロススタッフ、バックスタッフで天体の高度から位置を推定し、ログ・アンド・ラインで船速を把握していました。これらの計器の進歩こそが、遠洋航海を可能にし、後の大英帝国の海洋支配への道を開いたと言えるでしょう。