前提をただす:英国の入植者は先住民の奴隷化に「成功」していない
まず押さえておきたいのは、英国の入植者がアメリカ先住民を奴隷化することに成功していたわけではない、という点です。むしろ実態は正反対で、先住民たちは入植者による奴隷化の試みに対して極めて有効な抵抗を見せ、それを打ち砕いてきました。結果として、英国人によって奴隷にされた先住民はごく少数にとどまったのです。
先住民が奴隷化を退けた主な要因
圧倒的な「地の利」
最大の要因は、先住民が自分たちの土地を熟知していたことにあります。逃亡すれば、森や川、山岳地帯を自在に移動して追手を振り切ることができました。故郷から遠く離れた見知らぬ大陸へ連れてこられたアフリカ人とは状況が根本的に異なり、先住民にとって逃走は十分に現実的な選択肢だったのです。
親族・同盟部族による強固なネットワーク
逃亡した先住民は、近隣に暮らす親族や同盟関係にある部族の助けを得て、救出されたり匿われたりするケースが少なくありませんでした。さらに、有力部族との紛争を避けたい入植者側にも、先住民を過度に敵に回せない事情がありました。武力による報復を恐れるあまり、本格的な奴隷狩りに踏み込めなかったのです。
旧大陸由来の病気がもたらした影響
天然痘や麻疹など、ヨーロッパから持ち込まれた感染症は先住民社会に壊滅的な打撃を与えました。一部の部族では世代を重ねるうちに一定の耐性が育まれたものの、人口全体の激減は避けられませんでした。その結果、入植者が求める規模の労働力として先住民を確保し、長期にわたり奴隷として管理し続けることは構造的に困難になっていきました。
代わりに拡大したアフリカ人奴隷制
こうした事情から、英国の植民地、とりわけ17世紀後半以降のカロライナ地方では、先住民の奴隷化は限定的なものにとどまり、次第に縮小していきました。逃亡が難しく、故郷の支援網から切り離され、法的にも永続的な隷属を課されやすいアフリカ人奴隷へと需要が集中していったのです。
つまり、先住民の奴隷化が「失敗」したこと自体が、悲劇的にも北米におけるアフリカ人奴隷制の拡大を加速させる一因となったといえるでしょう。