ウェルギリウスの叙事詩『アエネイス』において、トロイア人が自ら進んで木馬を市内に引き入れたわけではありません。物語が描いているのは、ギリシャ軍が巧みな策略を用いて、トロイア人に木馬を「贈り物」として受け入れさせ、その内部に兵士を潜ませた経緯です。
ギリシャ軍の撤退と木馬の登場
物語によれば、ギリシャ軍はトロイアから船出して撤退するふりをし、巨大な木馬をトロイアの神々への供物として残していきました。トロイアの人々は、この木馬を城壁の中に引き入れるべきか、それとも破壊してしまうべきかをめぐって激しく議論しました。
ラーオコオーンの警告
このとき、ポセイドンの神官であるラーオコオーンは、木馬の受け入れに強く反対し、「ギリシャ人の贈り物には気をつけろ!」という有名な言葉を残しました。しかし彼の警告は、直後に海蛇に襲われて命を落としたことで、逆に神々の意志に反するものと解釈されてしまいます。
シノーンの偽りの証言
決め手となったのは、ギリシャ人シノーンの証言でした。彼は自らをギリシャ軍から逃げ出した裏切り者であると偽り、木馬はギリシャ軍の降伏の証であり、平和への捧げ物だと主張しました。さらに、木馬を破壊すればトロイアに災いがもたらされると告げたことで、トロイア人の疑念は完全に払拭されたのです。
トロイアの陥落
こうしてトロイア人は、ラーオコオーンの警告にもかかわらず、ついに木馬を市内へと引き入れました。人々は勝利を祝って宴や祝祭に明け暮れ、街は眠りにつきます。しかし夜が更けると、木馬の中に潜んでいたギリシャの精鋭たちが現れ、城門を開いて待ち伏せていた味方の大軍を迎え入れました。こうして繁栄を誇ったトロイアは、一夜にして炎に包まれ、滅亡へと至ったのです。