標高3,000メートルを超える険しいアンデス山脈——一見すると農業には不向きなこの大地で、インカ帝国は卓越した技術力によって豊かな農業を築き上げました。彼らはどのような工夫と知恵で山岳地帯での食料生産を可能にしたのでしょうか。その秘密を詳しく見ていきましょう。
1. 段々畑(テラス)
インカ人は山腹に段々畑(テラス)を築き、それまで耕作できなかった急斜面を農地へと変えました。段々畑は雨水の流れを緩やかにし、土壌の浸食を防ぐ効果があります。さらに、流れ去るはずだった水を作物の灌漑に有効活用することもできました。
2. 盛り上げ畑「ワル・ワル」
一部の地域では、「ワル・ワル(waru waru)」と呼ばれる盛り上げ畑が作られました。これは運河に囲まれた土の畝で構成される畑で、運河が水の流れを調節し、乾季であっても作物に必要な水分を安定的に供給してくれました。
3. アンデネス(階段状農地)
インカ人は「アンデネス」と呼ばれる細長い農地を急峻な山の斜面に設けました。アンデネスは水分を保持し、浸食を防ぐ働きがあり、ジャガイモをはじめとする、涼しい気温や高い標高に適応した作物の栽培に広く利用されました。
4. 高度な灌漑システム
インカ人は洗練された灌漑システムを発達させ、より高い場所から農地へと水を引き込みました。運河、水路橋、貯水池などを建設し、旱魃の時期であっても作物に安定した水を供給できる体制を整えていたのです。
5. 作物の多様化
インカ人は、異なる標高や気候に適応した多種多様な品種の作物を栽培していました。そのおかげで帝国各地のさまざまな微気候において作物を育てることが可能となり、安定した食料供給が実現しました。
6. 輪作による地力の維持
土壌の肥沃さを保つため、インカ人は輪作を実践していました。同じ土地で異なる作物を順番に栽培することで土壌中の養分の消耗を防ぎ、持続可能な農業を可能にしていたのです。
7. 凍結乾燥による保存技術
インカ人は「凍結乾燥」と呼ばれる手法で作物を保存していました。夜間の厳しい寒さで作物を凍らせ、昼間は太陽光で解凍する——この工程を繰り返すことで余分な水分が取り除かれ、腐敗を防ぎながら長期保存が可能になりました。有名なジャガイモの保存食「チューニョ」も、この技術から生まれたものです。
8. 食料貯蔵の工夫
余剰食料の保存にもさまざまな工夫が凝らされました。藁を敷き詰めた大型の地下貯蔵庫「コルカ(qollqa)」を用いて作物を冷たく乾燥した状態で保管し、穀倉などの貯蔵施設によって穀物やその他の食料を守っていました。
9. 広大な道路網による輸送
インカ帝国は縦横に走る広大な道路網を整備しており、食料や資源を帝国の各地へ効率よく運ぶことができました。この道路網は、異なる地域に暮らす人々が必要な食料を確保できるよう支える、極めて重要な役割を果たしました。
まとめ
インカ人の農業は、過酷な自然環境を巧みに克服した先進的な技術の集大成でした。段々畑や灌漑システム、凍結乾燥といった保存技術など、彼らの知恵の数々は現代の農業にも学ぶべき点が多く、今なおアンデス地方では一部の伝統的農法が受け継がれています。