古代ローマ人の神話上の祖先として語り継がれてきたのが、トロイアの王子アイネイアース(Aeneas)です。彼は女神ウェヌス(ギリシア神話のアフロディテ)を母に持つ英雄で、トロイア戦争で故国が滅亡した際、父アンキセスや息子を連れて燃えさかる都から脱出したと伝えられています。
長い放浪の末にたどり着いたイタリア
アイネイアースは神々の予言に導かれ、地中海を巡る長い旅の果てにイタリア半島のラティウム地方へたどり着きました。現地の王女ラウィニアと結婚してこの地に定住したことが、ローマ建国神話の出発点となります。
ロムルスとレムスへつながる系譜
伝説によれば、アイネイアースの子アスカニウス(別名ユルス)はアルバ・ロンガという都市を築き、その王家は代々受け継がれていきました。やがて王族の娘レア・シルウィアとの間に生まれた双子こそ、あのロムルスとレムスです。紀元前753年、ロムルスがローマを建設したことで、アイネイアースの血筋はローマ人の祖へと結びついていきます。
ローマ人にとっての特別な意味
この伝説は、詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』によって広く知られるようになりました。初代皇帝アウグストゥスをはじめとするユリウス氏族は、自らをアイネイアースの子ユルスの子孫であると主張し、王朝の正統性を示す象徴として活用しました。
こうしてアイネイアースは、単なる神話の登場人物にとどまらず、「ローマ人の父」としてローマという国家のアイデンティティを支える存在となったのです。