スペインによる植民地支配が始まる前のフィリピンでは、各先住民族集団が、それぞれの社会文化的慣習、環境要因、そして入手可能な素材に応じて、実に多様な服装スタイルを持っていました。ここでは、当時の服装の一般的な特徴を項目別にご紹介します。
1. 先住民の織物技術
- 背帯織機(バックストラップ・ルーム)や「イナベル」など、さまざまな先住民独自の織り技術が用いられ、布や生地が生産されていました。
- 素材には、植物由来の繊維(アバカ麻、綿など)、樹皮、葉などが活用され、自然環境との調和の中で発展した技術でした。
2. 男性の衣装
バハグ(Bahag)
男性が広く身につけていた腰布です。長方形の布を股間に通し、腰の周りで固定するシンプルな形状でした。
カンガン(Kangan)
先殖民期に着用されていた腰布の一種で、特にフィリピン北部の男性の間でよく使われていました。
マロン(Malong)
一部の地域では、大きな長方形の布であるマロンを腰に巻き、膝下まで垂らして身につけるスタイルも見られました。
3. 女性の衣装
チューブドレス
一部の女性は、膝下から足首までの長さがある筒状のドレスを着用していました。
巻きスカート(サヤ/Saya)
布を体に巻きつけ、腰で挟んで固定するタイプのスカートで、動きやすさと実用性を兼ね備えていました。
4. 上半身の衣服
カミサ(Camisa)・タピス(Tapis)・バロ(Baro)
男女ともにシャツやゆったりしたブラウスを着用することがありました。無地のものもあれば、精巧な刺繍が施された華やかなものも存在しました。
ジャケットとベスト
特に標高が高く気候が涼しい地域の集団では、保温のために短いジャケットやベストを着る習慣がありました。
5. 頭部の覆い
ターバンとヘッドバンド
女性は髪を部分的に覆うため、布を頭に巻いたターバンをよく着用していました。男性もヘッドバンドを使うことがありました。
帽子
籐や竹などの自然素材で作られたさまざまな形の帽子が、強い日差しから身を守るために利用されていました。
6. アクセサリーと身体装飾
宝飾品と装身具
男女ともに、金、銀、ビーズ、貝殻などの天然素材で作られたイヤリング、ネックレス、ブレスレット、アンクレットなどの宝飾品で身を飾っていました。
ボディペイントと刺青
多くの民族集団がボディアートを実践しており、複雑な模様を体に描いたり、文化的・社会的な意味を持つ刺青を入れたりすることが珍しくありませんでした。
装身具への強いこだわり
衣服そのものに加えて、スペイン統治以前のフィリピン人は個人の装飾に対して強い美意識を持っていました。腕輪、ブレスレット、アンクレットといったアクセサリーだけでなく、刺青もまた、身分や勇気、所属集団を示す重要な要素として親しまれていたのです。
まとめ
なお、上記はあくまで一般的な説明であり、スペイン統治以前のフィリピン諸島では、地域や民族集団ごとに服装のスタイルに大きなバリエーションが存在していました。多島国家ならではの多様性が、当時の人々の暮らしや文化を色濃く反映していたといえるでしょう。