実は、アフロディーテ自身がトロイ戦争を直接引き起こしたわけではありません。戦争の真の発端となったのは、トロイアの王子パリスが下した「審判」に端を発する一連の出来事でした。
パリスの審判とは
ある宴の席で、不和の女神エリスが「最も美しい女神へ」と刻まれた黄金の林檎を投げ入れたことから、ヘラ、アテナ、アフロディーテの三女神の間で美をめぐる争いが勃発しました。ゼウスはこの裁定を、イダ山で羊飼いとして暮らしていたトロイア王子パリスに委ねます。
三女神はそれぞれパリスに贈り物を約束して票を求めました。その中でアフロディーテは、「世界で最も美しい人間の女性――スパルタのヘレネの愛」を約束しました。パリスはこの申し出を受け入れ、アフロディーテを最も美しい女神として選んだのです。
ヘレネ略奪がもたらした戦争
問題は、ヘレネがすでにスパルタ王メネラオスの妻であったことにありました。それにもかかわらず、アフロディーテの力に後押しされたパリスはヘレネを連れ去り、トロイアへと持ち帰りました。
妻を奪われたメネラオスは、兄でミケーネ王のアガメムノンとともにギリシャ全土の英雄たちを結集し、ヘレネ奪還のためトロイアへ大軍を送り出します。こうしてギリシャ軍とトロイア軍の間に巻き起こったのが、十年に及ぶ伝説的な戦争――トロイ戦争なのです。
つまりアフロディーテは、パリスの審判における約束をきっかけとして、結果的に戦争の遠因を作り出した存在だと言えるでしょう。