ワット・プラ・シー・イリヤボットの概要
ワット・プラ・シー・イリヤボット(Wat Phra Si Iriyabot)は、タイ王国カムペーンペット県の古代都市カムペーンペット、アラニク地区に位置する大規模な廃寺です。「イリヤボット」はパーリ語に由来する「四威儀(行・住・坐・臥)」を意味し、境内に立像・歩行仏・坐仏・涅槃仏という4つの姿勢の仏像が安置されていたことからこの名で呼ばれています。
同寺院は世界遺産「古都スコータイと関連の歴史都市群」を構成するカムペーンペット歴史公園の一部であり、北へ約200メートルの位置に隣接するワット・プラノーンとともに、アラニク地区を代表する宗教遺跡の一つです。
立地と自然環境
位置関係
ワット・プラノーンの北方約200メートル、旧市街の堀から北へ約850メートル、フワイ・サイから北へ約630メートル、そしてピン川の流路からは北へ約1.5キロメートルの場所に位置しています。
標高
平均海面からの標高は約94メートルです。
水系
最寄りの主要河川はピン川(メーナム・ピン)です。
地質条件
地下には堆積物がラテライト(紅土)の丘を形成しており、遺跡の多くの建造物もこのラテライトを建材として用いています。
築造年代と文化的背景
当寺院は歴史時代に属する宗教遺跡であり、スコータイ朝期からアユタヤ朝初期、さらに中期にかけての活動が確認されています。スコータイ様式とアユタヤ様式が交錯する時期の伽藍構成を今に伝える貴重な例といえます。
伽藍配置と主要建造物
境内は矩形(長方形)の平面計画を採り、寺院全体は東を正面としています。正面には池やパビリオン(東屋)などの付帯施設が設けられていました。
四姿勢仏を祀るモンドップ
礼拝堂(ウィハーン)の背後、回廊壁(カムペーン・ケーオ)の内側には大型のモンドップが建ち、寺院の主塔としての役割を果たしていました。モンドップは方形の平面を持ち、中央部に屋根を受ける方形のコア(心壁)があり、そこから四方へ玄関部(ポーチ)が突出する独特の構造です。
各面にはスタッコ(漆喰)製の仏像が安置されていました。
- 東面:歩行仏(リーラー)
- 北面:涅槃仏(横たわる姿)
- 南面:坐仏
- 西面:立仏(他の三面より大きく造られている)
一基の堂宇に四つの姿勢の仏像を祀るこの形式は、スコータイ様式成立以前にさかのぼる伝統であり、スコータイ市街南側郊外のワット・チェートゥポンにも同様の例が見られます。
回廊壁と周囲のチェディ
回廊壁の四隅には意匠を凝らしたチェディ(仏塔)が配され、頂部が城郭状を呈する特異な様式を持っています。
ウボーソット(戒堂)
ウボーソットは低い基壇上に建つ小型の建物で、境内南側の外壁に隣接して建てられていました。周囲の地面には界石(セーマー/バイセマー)がめぐらされ、聖域の範囲を示していました。
僧院区(サンカワート)
仏殿区(ブッダワート)の背後に広がる僧院区からは、さまざまな規模の建物基礎が検出されています。これらはパビリオン(サラー)、僧房(クティ)、井戸などの遺構と考えられ、かつて僧たちが日常生活を営んでいた様子をうかがわせます。
まとめ
ワット・プラ・シー・イリヤボットは、四威儀仏というスコータイならではの信仰形式を体現する重要な遺跡です。壮大なモンドップと整然とした伽藍配置は、カムペーンペットが宗教都市として栄えた痕跡を今に伝えています。
出典:タイ芸術局(2009年)82〜84頁/情報整理:ワティニー・タノンポンクラング