考古学的発見

ハルマゲドンの舞台・メギドで3600年前のバニラを発見――香辛料の歴史が書き換えられる?

イスラエル北部の古代都市メギド(終末の戦い「ハルマゲドン」の語源となった地)で、約3600年前の土器壺3点からバニラの成分が検出されました。これまでバニラの原産地は中南米とされ、16世紀の大航海時代にスペイン人が旧世界へ持ち込んだと考えられてきました。今回の発見は、この香辛料の歴史を根本から見直すものになるかもしれません。

ハルマゲドンの舞台・メギドで3600年前のバニラを発見――香辛料の歴史が書き換えられる?

バニラのさや(バニラビーンズ)

高貴な一族の墓から現れた謎の芳香

2016年、イスラエルの考古学者たちは、約7000年にわたり人々が暮らしてきたメギド遺跡(面積約6ヘクタール)で、高位の家族のものとみられる重要な墓(50号墓)を発掘しました。この地は、イスラエル北部、イズレエル(旧約聖書のエスドラエロン)平原を見下ろす丘の上に位置し、聖書のヨハネの黙示録が終末の戦いの舞台とする場所です。

紀元前1600年頃に築かれたアーチ型の墓室からは9人の遺体が見つかり、うち3人は金製の首飾り(トーク)など豪華な装身具を身につけていました。そして、供物として納められた一連の壺が、驚くべき秘密を秘めていたのです。

ハルマゲドンの舞台・メギドで3600年前のバニラを発見――香辛料の歴史が書き換えられる?

メギド遺跡(イスラエル北部)の空撮。© Meggido Archaeological Mission

ハルマゲドンの舞台・メギドで3600年前のバニラを発見――香辛料の歴史が書き換えられる?

バニラの痕跡が見つかった「50号墓」出土の壺。© Melissa Cradic / Meggido

科学分析が明かした「バニリン」の痕跡

クロマトグラフィーと質量分析法による土器の分析の結果、オリーブオイルの痕跡に加え、バニリンと4-ヒドロキシベンズアルデヒド――バニラの主要な化学成分2つ――の存在が確認されました。

発掘を指揮したテルアビブ大学の考古学者、イスラエル・フィンケルシュタイン氏は「3600年前のレヴァント地方で、まさかこんな発見をするとは思っていなかった」と語ります。

原産地は中南米だけではなかった?

バニラは熱帯性のラン科つる植物が実らせるさやで、世界中に100種ほどが知られています。これまで考古植物学(植物由来の遺物を研究する分野)では、その起源はアメリカ大陸にあり、16世紀の大航海時代以降、スペイン人が旧世界に伝えたとされてきました。

しかし今回の発見は、アメリカ大陸以外でも、それより数世紀早い時期に人々が別種のランから芳香物質を採取していた可能性を示唆しています。

ハルマゲドンの舞台・メギドで3600年前のバニラを発見――香辛料の歴史が書き換えられる?

バニラのつる植物。© Viard M./ Horizon Features/ Leemage /AFP

隊商が運んだ貴重な香り

テルアビブ大学の考古学者ヴァネッサ・リナレス氏は、2018年11月12日に米国コロラド州デンバーで開かれた米国東洋研究所(ASOR)の学会でこの仮説を発表しました。同氏によれば、メギドで検出されたバニラの源となった可能性があるのは次の3種です。

  • 東アフリカ原産の V. polylepsis Summerh.
  • インド原産の V. albidia Blume
  • 東南アジア原産の V. undiflora JJ Sm.

リナレス氏は、この香辛料(あるいはバニラの香りをつけた油)が、アッシリアやペルシャがこの地域を支配する何世紀も前から存在した隊商や長距離交易網を通じてメギドにもたらされた可能性を指摘します。「青銅器時代の中東の人々は、従来考えられていたよりもはるかに遠隔地と交流していた」と同氏は述べています。その経由地は、おそらくメソポタミアだったのでしょう。

カナン人の支配層の墓からバニラが見つかった事実は、それがいかに貴重な品だったかを物語っています。儀式や遺体の保存といった目的に使われていたのかもしれません。

※メギド遺跡は紀元前6000年頃から絶えず人が住み続け、ペルシャ時代の紀元前5世紀に完全に放棄されました。