考古学的発見

エジプト・アブキール湾の海底でプトレマイオス朝時代の神殿遺構が発見される

海底に眠る「エジプトのアトランティス」

約1200年前に水没したエジプトのヘラクレイオンとカノポスという2つの古代都市は、何世紀にもわたって忘れ去られていました。しかし2000年代に考古学者たちによってその存在が確認されて以来、今もなお魅力的な遺物を次々と明らかにしています。このたび、プトレマイオス朝時代(紀元前4~3世紀)にさかのぼる神殿の姿が新たに浮かび上がりました。

エジプト・アブキール湾の海底でプトレマイオス朝時代の神殿遺構が発見される

エジプト・アブキール湾の海底に沈む都市ヘラクレイオンで発見された神殿の列柱。

フランク・ゴディオ率いる調査隊が神殿の柱を確認

アブキール湾のシルトに覆われた水域に、失われた神殿は静かに眠っていました。2019年7月、ヨーロッパ水中考古学研究所(IEASM)を率いる著名なフランス人水中考古学者フランク・ゴディオ氏の指揮のもと、ダイバーたちが紀元前4~3世紀にさかのぼる神殿の柱身(ドラム)を確認することに成功しました。さらに、プトレマイオス2世(在位 紀元前283~246年)時代の貴重な青銅貨幣や、数々の宝石類も出土しています。これらの発見は、エジプト考古省のハーレド・エル=アナニー大臣により2019年7月24日に正式発表されました。

地震と津波がもたらした都市の水没

ここはまさに「本物のアトランティス」と呼ぶにふさわしい場所です。ヘラクレイオン(トニスとも呼ばれる)とカノポスの2都市は、地震による破壊と相次ぐ津波の被害を受け、紀元前2世紀頃から次第に水底へと沈んでいきました。都市が完全に放棄されたのは8世紀のこととみられ、その引き金となったのは749年に発生した大規模な地震だと考えられています。

エジプト・アブキール湾の海底でプトレマイオス朝時代の神殿遺構が発見される

2019年7月にアブキール湾で発見された古代の宝石の一つ。出典:エジプト考古省/Christophe Gerick/Franck Goddio/Hilti Foundation

15年以上にわたる精緻な海底調査

エジプト当局の要請を受けて、水中考古学者たちは約15年にわたりアブキール湾の詳細な地図作成作業を続けてきました。電磁探査やサイドスキャンソナー(海底の音響画像を取得できる技術)などを駆使することで、水没した遺構は少しずつその秘密を明かしつつあります。2001年以降は、巨大な彫像や古代の船骸が湾の深淵から引き上げられたことも記憶に新しいところです。

エジプト・アブキール湾の海底でプトレマイオス朝時代の神殿遺構が発見される

アブキール湾で調査中の古代の船骸。出典:エジプト考古省/Christoph Gerigk/Franck Goddio/Hilti Foundation

古代エジプト最大の交易港トニス=ヘラクレイオン

ナイルデルタの入り口に位置し、紀元前7世紀に誕生したトニス=ヘラクレイオンは、迷路のように張り巡らされた運河と、荘厳な聖域や記念碑を擁する古代エジプト随一の交易港でした。長らく文献の中でしか知られていなかった同都市とカノポスの存在を実証したのは、ほかならぬフランク・ゴディオ氏です。実は彼は当初、18世紀のナポレオン艦隊の喪失船を捜索するために、有名なアブキールの海戦の海域を調査していたのです。それ以来約20年間、ゴディオ氏は調査を重ねるごとに両都市の範囲を特定し続け、その実際の広がりを拡大しながら、新たな宝物を次々と世に送り出してきました。

エジプト・アブキール湾の海底でプトレマイオス朝時代の神殿遺構が発見される

プトレマイオス2世の治世(紀元前283~246年)に鋳造された青銅貨幣。出典:エジプト考古省/Christoph Gerigk/Franck Goddio/Hilti Foundation

地中海商人たちの必須の寄港地

紀元前332年に名高いアレクサンドリアが建設されるまで、トニス=ヘラクレイオンはエジプトで最も重要な港でした。「カノピス口」と呼ばれるナイル川西支流の河口に位置していたため、地中海からやってくる船の玄関口となり、エジプト産小麦を仕入れるギリシャやクレタ島の商人たちにとって欠かせない通過点だったのです。当時のエジプトは、マケドニア系のファラオによる王朝であるプトレマイオス朝(紀元前323~30年)の支配下にあり、地中海世界の「穀倉地帯」としての重要な役割を担っていました。